エターナル・フロンティア~前編~

 いや、手足だけではない。身体全体が重く、唯一上手く動かすことができるのは眼球だけ。

 眼球を動かし、周囲を確認する。視界に入ったのは、見慣れた者達。皆、焦った表情を浮かべている。

 投与した薬の分量を間違えたのか、それとも別の“何か”が関係しているのか。どちらにせよ、科学者達が何かを仕出かした。というのが、正しい解答だろう。現に、何度も体験している。

「聞こえるか」

 言葉を発したのは、ユアンだった。彼の言葉にソラは擦れた声音で、自身が置かれている状況を聞く。ソラの質問にユアンは渋い表情を作るが、明確に現在の状況に付いて話した。

 データ収集の為に薬を使用したが、それが悪い方向に働いてしまったという。しかしユアンに言わせれば、分量は正しい。それに、身体に悪い効果を出す薬ではない。何故悪い面に働いてしまったのか、ユアン自身も不明という。だから、ソラが何か仕出かしたのではないかと逆に尋ねた。

 知らない。

 それが、ソラの回答。

 ふと、そのように返事を返したが、引っ掛かる部分があった。勿論、ソラは何もしていない。そもそも、薬を投与されるということ自体知らなかった。なら、別の要因が関係している。

 その時、夢の中に登場した少年の存在を思い出す。彼の意思が働き、薬を拒絶したというのか。だが、夢の中の少年が関係しているかどうかは憶測に過ぎないので、ユアンに話すことはできない。それに夢の人物を話した場合、何をされるかわかったものではないからだ。

「……聞いているか」

 夢の人物を考えていると、ユアンの声音が耳に届く。ソラが考え事をしている間ユアンは話し続けていたのだろう、ソラから返事がないことにユアンの表情が悪い。どうやら怒っているようだ。

 慌てて聞いていたということを伝えるが、勘のいいユアンはすぐに嘘をついていると悟る。しかし、現在の状況を考えるとその点を注意する時間はない。それより、早くソラを治療しないといけない。

 刹那、ソラが大量に吐血する。吐き出された血液は顔面や纏っている服を赤く染め、側にいた科学者達の白衣にも飛び散る。一体、どれだけの血液が流れ出たというのか――何度も吐血を繰り返す姿は、実に痛々しい。

 同時に、大量の血が体外に排出された場合命を落とすというのを科学者達は知っているので、更に慌しく動きユアンの指示を仰ごうとする。
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