エターナル・フロンティア~前編~

 目を閉じ、全身でその冷たさを感じる。それに伴いうけた傷口の痛みが先程以上に鮮明になるが、それもまた心地いいものへ変化する。このまま、永遠に眠り続けていない――そのような気持ちにさせるほど、床から伝わる冷たさはソラを優しく包み込み、気分を落ち着かす。

 ふと、床より伝わる足音がソラの耳に届く。どうせ追ってきた兵士だろうと思い、気にもしなかった。捕まえるのならそれでもいいと、半分諦めていた。全身の力を抜くと、抗うことを否定する。しかし足音が微妙に違うことに気付くと重い瞼を開き、音の主を確認する。

「……貴女は」

 足音の主というのは、七十に近い白衣を纏った老女。無論、ソラは見知らぬ人物であったが、柔和な表情の相手にソラは表情を歪ますも何処か安堵感を覚える。相手は水と血で濡れおぞましい姿をしているソラに動揺する様子もなく、この騒ぎの主が彼だと瞬時に判断する。

 誰にも通報せず、ソラの前で両膝を付くとポケットからハンカチを取り出し濡れる髪や額を拭きだす。ソラはこれ以上しなくていいということを告げるように老女の手を止めると、自身は壁に寄り掛かろうとする。その時、身体が急に熱くなり血が逆流する気分に陥る。

 まるで肉体の内側から得体の知れない生物が皮を破り、外に飛び出しそうであった。それは、押えきれない自身の力。薬を打たれた時と同じ感触で、心臓が激しく鼓動し呼吸が苦しくなる。強い力で首を締め付けられているという感覚だろう、酸欠で視界が歪みはじめる。

 蹲り喘いでいるソラの姿に老女は、口を開き「大丈夫」と、声を掛けてくる。苦しみながらソラは老女の顔を見ると、泣きそうな表情を浮かべていた。彼の表情に老女はソラの身体を抱き締めると、そっと囁く。それはまるで、自身の罪を告白しているようでもあった。

「落ち着いて……ゆっくりと呼吸をしなさい。そう……落ち着いて、大丈夫。大丈夫だから」

 しかし、老女の言葉の通りに上手く呼吸ができない。ソラは懸命に何度も喘ぐように空気を求めるが、それが無駄な努力になっていく。身体に新鮮な酸素が提供されないことにより身体のあちこちが苦しみだし、その影響なのだろう大粒の涙が幾重にも頬を伝い床に落ちる。

 その時――

 ソラは握られる腕を振り解き、自らその場を離れようとする。しかし心臓に激痛が走り同時に全身が押し潰されそうな感覚に陥り、吐き気が込み上げてくる。想像以上の不快感と苦しみに、片手で胸元を押さえ喘ぎだす。その危機的な状況に老女は、ソラの身体を支えようと近付いた。
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