エターナル・フロンティア~前編~

 床に倒れ必死に炎を消そうと転げ回るが、その炎は兵士だけでは飽き足らず部屋全体を飲み込んでいく。火事が起こったことを知らせる警報音が鳴り響き、それに続きコンピュータの声がスプリンクラーを使用することを告げる。そして一拍置いた後、霧状のシャワーが大量に降り注いだ。

 全身を焼き尽くされた兵士は、スプリンクラーの水のお陰でなんとか一命を取り留めることができたが、全身が赤く爛れ呼吸がか細い。また吹き飛んだ腕から流れる血は止まらず、大量出血は免れない。予想以上の被害に隊長は医療班を呼び寄せると、少年の状況を把握する。

 そして、呟く。「化け物」と――

 瓦礫の下敷きになっていた女は何とか這い出すと、周囲を見回す。拘束が緩かったことが幸いし怪我ひとつ負うことはなかったが、キツク縛られていたらと思うと背筋が凍り付く。

 彼女の目の前に広がるのは、壊れてしまった機材に水浸しになっている室内。そして傷つき血塗れになっている仲間達に、水に濡れ立ち尽くしている少年。その切ないまでの姿に、女の心が痛む。

「ソラ君」

「……貴女に、危害を加えません。オレを助けようとしてくれた……感謝します。だけど、オレを止めないで下さい。帰りたい……ただ、それだけです。此処はあまりにも、嘆きの声が強い」

 この状況に似合わない言葉に、女の顔が歪み何も言えなくなってしまう。それに対しソラと呼ばれた少年は恭しく頭を垂れると、部屋の外へ向かう。その間、兵士達は攻撃を仕掛けることはなかったが、彼等の目付きは様子を窺っているかのような真剣さが感じられた。

 刹那、ソラは激しい頭痛に襲われ壁に凭れ掛かってしまう。それを見た兵士達は取り押さえようと動くが、反射的にソラに力を使用されてしまう。それは衝撃波とは異なり高い殺傷能力を有している力で、次々とスプリンクラーの水で濡れた兵士達の身体を貫いていく。

 鼻や口から大量の血を吐き出し、糸の切れた人形のように次々と倒れていく。力の使用により頭痛は更に酷さを増していくが、ソラはふら付く足取りで進む。その間も容赦なく兵士が取り押さえようと襲い掛かってくるが、制御しきれない力によって床や天井を赤く染め上げる。

 全て、兵士達の血で――

 一向に回復の気配を見せない頭痛は時間が経つにつれ、痛みは酷さを増していく。激痛に耐え切れなくなりソラは床に倒れ込んでしまうが、肌から伝わる床の冷たさが神経を過敏にする。来る途中に受けたナイフの傷が疼きだし、また血によって染まった服の色が生々しい。
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