エターナル・フロンティア~前編~

 刹那、何かが砕けるような鈍い音が響き、辺りの壁と床が一瞬にして砕け散る。まるで機械で押し潰されたかのようにへこみ、周囲に存在していた機械が破壊され火花が散っていた。

「……頭が、頭が割れそうだ」

 ソラは耐え難い激痛に、言葉にならない叫び声を上げる。頭を押え、自分自身の髪を掻き毟る。ふと、廊下に落ちた自分の毛に視線が行く。黒ではなく、白く変化した自身の毛に――

 髪を毟りその色を確認すると、黒かった髪が白くなっていることに気付く。自分の身体に起こったことを必死で受け止めようとするが、自らの髪の色が変わりつつあることに恐怖を覚えた。

 その時、後ろから乾いた銃声が響く。同時にソラの身体が痙攣し、徐々に思考が麻痺しだす。視界は白く染まり、今起こった出来事が夢のように思えてくる。耳に届く音も小さくなり、此方に近付いてくる音も上手く聞き取れない。そして全身から力が抜け、冷たい床に崩れ落ちた。

「どうだ、やったか?」

「まったく、手間をかけさせやがって。取り押さえろ」

 銃を手にした複数の兵士が、此方に向かって駆け寄ってくる。しかし老女の姿を目にした瞬間、兵士達の間に動揺と緊張感が走った。そして兵士の一人が、震える声音で老女の名を呼んだ。

「コ、コーネリアス博士」

「この者は、私が預かります。そう、上に伝えておきなさい」

 彼女の凛とした厳しい言葉に兵士達は気まずそうな表情を浮かべ互いの顔を見合わせると、コーネリアスと呼んだ老女に敬礼するとそそくさと逃げ去るかのように立ち去ってしまう。彼等の後姿にコーネリアスは深い溜息を付くと、しゃがみ込みソラの濡れた髪を撫でる。

「本当に、御免なさい。でも、貴方は――」

 その言葉の後には、何も続けられることはなかった。コーネリアスは白衣のポケットから携帯電話を取り出すと何処かに連絡し、自分が彼の面倒を見ることを相手側に話す。彼女の会話をまどろみの中で聞いていたソラは、自分の今後のありようがわからないまま意識を闇に落していた。
< 9 / 580 >

この作品をシェア

pagetop