エターナル・フロンティア~前編~


「気になるか?」

「気にならない方がおかしい」

 ソラは暗い表情を作ると俯き、カディオから視線を外す。すると先程とは違い、カディオの表情が真剣になる。フォークを皿の上に乗せるとテーブルに両肘をつき、低い声音で語り出す。

「お前の辛さは、わかっているつもりだ。だが、プライベートまでは縛り付けることはない。たとえ力を持っている人物であったとしても、やって良いことに制限はないと思う。それが、誰かを好きになるということであったとしても。ふっ! 我ながら、臭い台詞だな」

 頭を掻き、更に続ける。

「そんなことより、俺はお前の身体の方が心配だ。私的な考えだが最近、薬の濃度が異様に高くなっていないか? お前はどうか知らないが、立て続けに使用している奴等の顔を見るとそれがよくわかる。あれは、死人の表情だな。本当に科学者(カイトス)は、何を考えているのか」

 カディオはソラと友人関係を築くようになってから、能力者(ラタトクス)について色々と学んだ。其の為、彼等が使用している薬のこともある程度は知っている。そして、それがどのような物かも――

「科学者から、検診を受けろと言われている。今まで上手く誤魔化してきたが、どうもそれが仇となったみたいだ。カディオ、オレはどういう人間なのかな。時々、そう思うことがある」

「愚問だな。俺は、お前達の方が人間らしいと思う。まあ、あいつ等がやっていることは常識離れしている」

「笑わないで、聞いてくれ。一般の人間に対して、どうして罪悪感があるのかわからないんだ。正確には、思い出すことができない。まるでスッポリと、過去が抜け落ちたような感じに。断片的には、思い出すことはできる。ただ、肝心な部分が……だから、とても苦しい」

「なんだよ、それ」

「タツキに聞いたら、薬の影響じゃないかと言われた。でも、明確には答えていなかったけど」

 タツキという名前に、カディオは特に表情を変えることはなかった。カディオは、タツキという女性がどのような人物か知っている。知っているからこそ、ソラがその名前を口に出しても変化を見せないでいた。

 その時テーブルに置かれていたスプーンが滑り落ち、乾いた音を上げる。突然の音に客達の会話が止まり、二人に視線が集中する。カディオは集まった視線に戸惑いソラに話し掛けようとするが、言葉に詰まってしまう。目の前には、真っ青な顔をした友人が座っていたからだ。
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