ロスト・クロニクル~前編~

「国に帰ったら、父と母に会いたいな」

「きっと、お喜びになるでしょう」

「そうだと良いけど」

「喜ばないはずが、ありません」

 故郷を懐かしく思い、口許が緩む。

 学園に入学してから今まで、一度として実家に帰っていない。

 故郷はどのように変化し、どのように時間が流れているというのか。

 また、聞いた話は本当だというのか。

 リデルが言っていたように、母国は過去の栄華を失ってしまった。

「では、連絡をしておきます」

「それと、例の人物には内緒にしておいてほしい。余計な心配を掛けると、本当に煩いから」

「ご安心下さい。我等が、上手く動きます。聊か頼りない者も存在しますが、才能はありますので大丈夫です」

「そんな人がいたかな。もしかして、新入り? 帰ったら会ってみたい。リデルがそこまで言うのだから」

 歳月は、人の流れさえも変化させる。 

 その急激な変化に驚いてしまうだろうが、逆にそれが楽しみでもあった。

 故郷であるクローディア王国は楽しみで帰る現状ではないと理解していても、そう思わなければ押し潰されてしまう。

 物思いに耽る表情を作り、エイルは窓の外を眺めていた。

 そんなエイルの姿にリデルは胸元で両手を組むと、祈りの言葉を口にする。

「エメリスのご加護があらんことを」

「僕だけじゃなく、大勢の人にもね」

 満面の笑みに、リデルは言おうとしていた言葉を止めてしまう。

 そして無言で頷くと、一言返事を返すだけだった。

「わかっております」

「日にちが決まったら、手紙を送るよ」

「……はい」

 その決断がどう運命に影響するのかエイルは知らないが、こうなるという確信はあった。

 あったからこそ、その道を選んだ。

 たとえそれが自身の今後に関わることであろうと、今のエイルには関係ない。


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