ロスト・クロニクル~前編~
「凄いな」
「そうでもないよ。このことは、図書室に置いてあった本に書いてあったし。ただ、解釈が難しかった」
「流石、本の虫」
「そうかな」
「そうだよ」
それは、褒めているのか。
それとも、相手を貶して言っているのか。
エイルは彼の言葉に複雑な表情を見せようとした時、大きな欠伸をしてしまうがセリアが注意をしてくることはない。
どうやら先程のことで指名することを諦めたらしく、その証拠に別の生徒の名前が呼ばれた。
「徹夜?」
「レポートだよ」
そう言いつつ、ノートの下から数枚の紙を取り出す。
表紙には〈魔法発達と世界史〉という小難しい題名が書かれており、エイル曰く「これは、セリア先生が勝手に決めたもの」らしい。
この内容を手渡された時、その理不尽さにセリアを呪い殺そうと本気で思ったという。
魔法理論は授業を受けている生徒の顔を見ればわかるように、非常に難解な解釈が必要となる。
特にそれぞれの属性ごとに特徴が異なり、授業で学ぶ内容だけではレポートを仕上げるのは不可能に近い。
これには、応用力が欠かせない。
だが、これはこれでなかなかの曲者。
「エイルなら、簡単だろ?」
「そんなことないよ。また、書き終わっていないし。それに、他の人達の補習の手伝いがある」
「うっ! 痛いことを――」
「そう言えば、お前の宿題も手伝ったな」
「……覚えていたか」
「忘れるわけないよ」
懐かしい思い出に、エイルは毒を吐いていく。
一方、言われた方は堪らない。
思い出された嫌な内容に、耐えるしかない。
しかしエイルの方は更に不幸で、手伝ったというのに報酬は一切なし。
大体がお礼の言葉を言われる程度で、できるものなら目に見える感謝の印の方が有難い。
エイルは無報酬で手伝うほど優しい人物ではないので、最近では手伝う前に報酬の前払いしてもらっているという。
無論、学生のやり取りなので「学食一回分」が基本となり、金品は飛び交わない。
もし金品が飛び交っていると知られたら、下手すれば退学処分となってしまう。