ロスト・クロニクル~前編~
「知らないぞ」
「わかっているって」
危機感を感じていないクラスメイトに肩を竦めると、エイルはノートにペンを走らせていく。
だが、完全に眠気が消えたわけではないので、時折欠伸が漏れ出し眼元を涙で濡らす。
何度か欠伸を繰り返していると、タイミングよくセリアと目が合ってしまう。
刹那、エイルは顔から血の気が引いた。
「わたくしの授業は、そんなにつまらないのかしら。他の生徒達は、きちんと聞いているわよ」
「そ、そんなことは……」
「そう、ではこれを答えなさい」
「……はい」
エイルは顔を引き攣らせつつ椅子から腰を上げると、セリアの質問に自分なりの解釈を加えつつ回答を述べていく。
最初はオドオドとした語り口調であったが、最後に向かうにつれエイルは流暢に語り出す。
彼が語る高度な知識の数々に、クラスメイトの全員が声を失った。
セリアが回答を求めたのは、難解そのもの。
とても、独自の解釈付で回答できるものではない。
しかし、エイルは回答を続ける。
「――以上です」
終了と同時に勝ち誇った表情を作るエイルは、セリアからの回答を待つ。
生徒からこのような内容を聞けるとは予想もしていなかったのか、返事を返すまでにだいぶ時間が掛かってしまう。
「え、ええ……座っていいわ」
明らかに、声が震えていた。「信じられない」という思いがセリアには存在していたことを誰の目にも明らかだった。
またエイルの知識の高さに驚かされたのか、クラスメイト全員が唖然となっている。
そして改めて気付かされるのは、メルダースで勉学を学ぶ以上、これくらいの知識を有さないといけないこと。
エイルの知識の多さは、メルダースで知らない者はいない。
それを目の当たりにした者達は尊敬と悔しい思いが混じり合った溜息が付くと、勉強を行い知識を増やそうと決意する。
エイルは椅子に腰を下ろすと同時に、大きく息を吐き出す。
どうやら長く喋り続けていたことにより、疲れてしまったらしい。
それでも表情は満足そのもので、それはクラスメイトから尊敬と嫉妬の眼差しを向けられたからではなく、あのセリアに勝つことができたからだ。