ロスト・クロニクル~前編~
「エイルさん?」
「君も研究者なら、これが何かわかるよね」
「えーっと、中和剤」
「そう。この中和剤をこのどす黒い液体と混ぜて……」
どす黒い液体とは、マルガリータの栄養剤。
その中に中和剤を混ぜていくと、コポコポと音をたて色が透明になっていく。
中和剤とは、実験で失敗した液体などを安全に捨てる為に作られた液体。
生徒が作る物の中には自然破壊を起こしてしまう物が存在するので、失敗した物は中和剤と混ぜ捨てるのが原則となっていた。
エイルはそれに従い、栄養剤に中和剤を混ぜた。
その量は、通常の二倍。
どうやら「念には念を入れ」ということらしく、いかんせん相手が悪すぎる。
「いいのですか、勝手に」
「構わないよ。どどめ色に染まった山百合なんて、この学園にある自体がおかしいんだから」
「そうですね」
「そういうことだよ。それに、相手はラルフだし。さて、進化したマルガリータを退化させることはできないのかな?」
「それは難しいと思います」
一番の被害者であるマルガリータを元の綺麗な山百合に戻したいと思うも、エイルはそれ専門ではない。
可哀想だが土の中に埋め、大地に返ってもらうことが一番だろう。
そう判断したエイルは気絶しているラルフをそのままにし、新人君と建物の外に向かうことにした。
数十分後、ラルフが気絶している部屋の前を通った生徒が悲鳴を上げた。
それは、部屋の中から怨霊の呻き声のような声音が聞こえたからだ。
そう、それはラルフのすすり泣く声。
取り残されてことに悲しくなり、床に倒れながら泣いていたという。
その後発見されたラルフは、教師達の手によって保健室に運ばれた。
適当な場所がないかと探すも、なかなか良い場所が見つからない。
仕方なくエイルは、寮の裏手に埋めることにした。
落ちていた小枝で穴を掘り、マルガリータを埋める。
そして冥福を祈るように、手を合わせた。
次は綺麗な山百合として、生まれ変わってほしい。
もし復活するようなことがあれば、綺麗な姿のマルガリータを見てみたいと、エイルは強く思ってしまう。
流石にどどめ色は、精神に悪すぎる。
しかし、何故あのような色に変化したのか。
今もって、それが謎であった。