ロスト・クロニクル~前編~
「では、エイルさん。帰りますね」
「事の顛末を宜しく」
「これで、少しは静かになると思いますよ」
「やっと、勉学に集中できる」
正直なところ、魔導研究会が邪魔で仕方がなかった。
本部に乗り込んで魔法をぶっ飛ばせば静かになると思われるが、それをしまうとエイル自身が悪役となってしまうので行わなかった。
だからこそ、数日前に行われた決闘はエイルにとって好都合であった。
加減すると言いながら加減しなかったのは、その為である。
あの件から今まで、静かで過ごしやすい。
これでラルフが大人しくなれば更に嬉しいことであるが、学習能力が著しく低下しているので期待できない。
「魔導研究会が解散したら、新しくファンクラブを作りましょうか? 絶対に、楽しいですよ」
「誰の?」
「それは、エイルさんに決まっているじゃないですか。それ以外、誰がいるというのですか」
「やめてほしいな」
ファンクラブを結成されるほどの大物でもなく、結成されたらされたで周囲が煩くなる。
静かで平穏な学園生活――それを失うわけにはいかない。
だからエイルは、激しく拒否した。
「いいと思うんですけど」
「作ったところで、誰も入会しないと思うよ」
「そんなことはありません。エイルさんは、人気者ですよ。何百人単位で、加入者が出ます」
何でもあの決闘以来、エイルに憧れる生徒が増えたという。
どうやら、研究会を吹っ飛ばしたことが印象深かったらしい。
彼が言うようにファンクラブを結成すれば、多くの会員が集まるだろうがエイルはそれを認めない。
「いや、いいよ」
「そうですか。残念です」
此処は、丁重に断る。
下手に嫌がる素振りを見せたら、面白がって結成されてしまうからだ。
その態度に新人君は残念そうな表情を浮かべると、研究会が集まる教室へ戻って行く。
その後姿に、エイルは溜息をついた。
エイルはマルガリータを埋めた場所に視線を落とすと、上から枯葉を落としていく。
これは、一種の証拠隠滅。
いや、この場合は違う。
間違って、動物の死体が埋められていると勘違いされたくないからだ。
それに下手に掘り起こされでもしたら、マルガリータが復活してしまう。