ロスト・クロニクル~前編~

 そう、ハリスを驚かせた生き物がいる場所へ。

 知的好奇心が、彼等を動かす。

 たとえどのような結末が待っていようとも、構わなかった。

 いや、結末は予想できていた。

 だからこそ、生徒達は其処へ向かってしまう。

 これは、学園はじまって以来の珍事。

 この先、絶対に起きることのない……起きてはいけない出来事。

 だからこそ、生徒達はこの目に焼き付けようとする。

 ハリスが驚愕した、植物のことを――

 彼等は急いで、現場へ向かった。

 そして真っ先に目に飛び込んできたのは、腰を抜かしたハリスの姿であった。

 何かを指差し、身体を震わせている。

 それは恐怖に戦いているのではなく、植物の変化に怒りを覚えていたようだ。

「ハリス爺ちゃん?」

 そう声をかけた瞬間、物凄い形相で睨み返された。

 その表情から伺い知れることは「植物を貶した」ということだろう。

 犯人が見つかった場合、持っている剪定用のハサミで切られてしまう。

「な、何があったのですか?」

「これを見ろ」

 促されるまま、指で示された植物を見る。

 次の瞬間、全員の時間が止まった。

 そう其処に生えて植物は何と「どどめ色」をしていたのだ。

 その色にエイルは心当たりがあったが、ハリスが恐ろしいので口には出せないでいた。

「誰だ! このようなことをしたのは」

 どどめ色の植物――それも、山百合であった。

 その姿形からして、間違いない。

 あの「マルガリータ」と呼ばれていた、山百合である。

 それに思い出せば、埋めた位置は確か此処であったはず。

 まさか、復活を。

 エイルは周囲に誰もいなかったら、頭を抱え叫んでいただろう。

 あの時、確かにマルガリータは確かにご臨終した。

 だが、冬を越し春になって復活をするとは、予想外もいいところである。

 流石、ラルフが育てていた植物。

 育て主に似てタフで根性があり、尚且つ鬱陶しく諦めを知らない。

 あのまま永遠に眠っていてくれれば、どれだけ学園にとって幸せだったことか。

(ああ、何故……)

 この世界にいてはならない植物の復活に、エイルは全身から力が抜け崩れ落ちてしまう。

 そして、ちょっぴり涙ぐんでしまう。

 いや、周囲に誰もいなかったら大声で泣き叫んでいただろう。

 詰が甘かったのか、それともマルガリータを不憫に思ったのがいけなかったのか。


< 206 / 607 >

この作品をシェア

pagetop