ロスト・クロニクル~前編~
エイルは、問答無用で消し炭まで焼却しなかったことを悔やんでしまう。
あの植物は、僅かな破片が残っていようが復活を果す勢いがある。
だが、こうなってしまえば全てが遅い。
このように、気色悪い花を咲かせているのだから。
「ど、どうした?」
「……ラルフ」
「えっ!」
ポツリと呟いた単語に、全員が反応を見せる。
それと同時に、どどめ色と化した山百合の存在の意味を知る。
このように変色させたのはラルフ。
いや、この学園でそれを行えるのは彼しかいない。
だが、信じる者はいなかった。
ラルフが育てた植物の復活など、あってはならないことであったからだ。
そして目の前にある植物は、明らかに地上に存在しない物。
このような色を咲かせる植物など、有り得ない。
いや、存在してはいけない。
まさに、悪夢に等しい花だ。
「あの植物は、確か……」
「うん。お亡くなりになったよ」
あの光景は、今でも覚えている。
そうマルガリータを埋めたのは、エイルであるからだ。
それに、二階の窓から間違いなく落とした。
植木鉢は綺麗に割れ、マルガリータは見るも無残な姿に。
止めを刺したのはラルフで、踏みつけたことにより完全にマルガリータは死亡したはず。
そして復活をしたということは、まだ生きていたというのか。
相手は人知を超えた存在。
なので、復活してもおかしくはないだろう。
まるで、物語の中に登場するゾンビのようである。
「なら、ハリス爺さんに言わない方が……」
「言ったら、どうなると思う!」
「剪定用のハサミで、切られるね」
朝日を浴び、鈍い光沢を放つハサミ。
あれで襲われることなどあったら、生きた心地がしない。
あれで脅かされただけで、口から魂が抜けてしまう。
現に気が弱い生徒が、気絶したほどだ。
この学園で恐ろしいのは、学園長のクリスティ。
しかし本当の意味で怖いのは、ハリスだろう。
クリスティは滅多に姿を見せない。
だからこそ、真の恐ろしさを知る生徒は少ない。
植物がある場所には必ず現れ、仕事をしている。
よって、危険な目に遭う回数は此方の方が多い。
だからこそクリスティに対して媚を売るより、ハリスに媚を売る生徒が多いのは確かであった。
それにクリスティとは違い、遊びという余裕を見せない。
つまり、刑の執行は速やかに行われる。