ロスト・クロニクル~前編~

 エイルは、問答無用で消し炭まで焼却しなかったことを悔やんでしまう。

 あの植物は、僅かな破片が残っていようが復活を果す勢いがある。

 だが、こうなってしまえば全てが遅い。

 このように、気色悪い花を咲かせているのだから。

「ど、どうした?」

「……ラルフ」

「えっ!」

 ポツリと呟いた単語に、全員が反応を見せる。

 それと同時に、どどめ色と化した山百合の存在の意味を知る。

 このように変色させたのはラルフ。

 いや、この学園でそれを行えるのは彼しかいない。

 だが、信じる者はいなかった。

 ラルフが育てた植物の復活など、あってはならないことであったからだ。

 そして目の前にある植物は、明らかに地上に存在しない物。

 このような色を咲かせる植物など、有り得ない。

 いや、存在してはいけない。

 まさに、悪夢に等しい花だ。

「あの植物は、確か……」

「うん。お亡くなりになったよ」

 あの光景は、今でも覚えている。

 そうマルガリータを埋めたのは、エイルであるからだ。

 それに、二階の窓から間違いなく落とした。

 植木鉢は綺麗に割れ、マルガリータは見るも無残な姿に。

 止めを刺したのはラルフで、踏みつけたことにより完全にマルガリータは死亡したはず。

 そして復活をしたということは、まだ生きていたというのか。

 相手は人知を超えた存在。

 なので、復活してもおかしくはないだろう。

 まるで、物語の中に登場するゾンビのようである。

「なら、ハリス爺さんに言わない方が……」

「言ったら、どうなると思う!」

「剪定用のハサミで、切られるね」

 朝日を浴び、鈍い光沢を放つハサミ。

 あれで襲われることなどあったら、生きた心地がしない。

 あれで脅かされただけで、口から魂が抜けてしまう。

 現に気が弱い生徒が、気絶したほどだ。

 この学園で恐ろしいのは、学園長のクリスティ。

 しかし本当の意味で怖いのは、ハリスだろう。

 クリスティは滅多に姿を見せない。

 だからこそ、真の恐ろしさを知る生徒は少ない。

 植物がある場所には必ず現れ、仕事をしている。

 よって、危険な目に遭う回数は此方の方が多い。

 だからこそクリスティに対して媚を売るより、ハリスに媚を売る生徒が多いのは確かであった。

 それにクリスティとは違い、遊びという余裕を見せない。

 つまり、刑の執行は速やかに行われる。


< 207 / 607 >

この作品をシェア

pagetop