ロスト・クロニクル~前編~

「帰る」

「ゆっくりしていっていいぞ」

「こんな汚い部屋で、ゆっくりできるか」

「一応、掃除はしているぞ」

 その言葉にエイルは、溜息を漏らしつつ周囲を見回す。

 掃除をしていると言っているが、床に散らばっているのは汚い服と食べ残しの跡。

 特に食べ残しを踏み付けた瞬間、ねっとりとした感触が足裏から伝わる。

 エイルは踏み付けてしまったそれを器用に足で蹴り飛ばすと、ラルフを睨み付ける。

 そして一言「だらしない」と吐き捨てると、そのまま出て行ってしまう。

 一方ラルフは、何が起こったのかわからない様子であった。

 ただ何度もエイルの名前を呼び、行かないでほしいと懇願する。

 しかし、エイルが戻ってくることはない。

 その時、タイミングよく扉が開かれた。

 「エイルが帰ってきた」と判断したラルフが飛びつこうとするも、姿を現した人物を見た瞬間固まってしまう。

 相手もおかしな姿で固まっているラルフに驚くも、何事もなかったかのように一通の手紙を手渡す。

 これこそ、進級試験の合否だ。

 ラルフは引っ手繰るように受け取ると、中身を確認する。

 そして書かれていた文字に、悲鳴を上げた。




「有難う」

 同じ頃、エイルも合否が書かれた手紙を受け取っていた。

 それを受け取ると扉を閉め、壁に寄り掛かりながら中身を確かめる。

 無造作に封を開けると、まずは採点がされているテストを眺める

「……ああ、間違えた」

 満点を取るつもりで解いたテストであったが、残念ながら満点ではなかった。

 何処で間違えたのだろうと問題を読み直すと、ほんの少しの認識違いによるものだと気付く。

 どうやら、固定概念が邪魔をしたようだ。

 続いて取り出したのは、実習の採点。

 これに関しては文句の付け所はなく、満点を貰っていた。

 エイルにしてみたら実習より普通に勉強をする方が好きなので、此方で満点を取っても嬉しくはなかった。

「まあ、このようなものか」

 周囲が予想した通りエイルは進級試験に合格をしていたが、嬉しそうな様子を見せない。

 「進級して当たり前」という考えがあったからだろう、淡々とした表情を作り手紙を寝台の上に置く。

 しかし、内心はホッとしていた。

 合格を宣言していた為に、落ちることはできない。


< 224 / 607 >

この作品をシェア

pagetop