ロスト・クロニクル~前編~
「帰る」
「ゆっくりしていっていいぞ」
「こんな汚い部屋で、ゆっくりできるか」
「一応、掃除はしているぞ」
その言葉にエイルは、溜息を漏らしつつ周囲を見回す。
掃除をしていると言っているが、床に散らばっているのは汚い服と食べ残しの跡。
特に食べ残しを踏み付けた瞬間、ねっとりとした感触が足裏から伝わる。
エイルは踏み付けてしまったそれを器用に足で蹴り飛ばすと、ラルフを睨み付ける。
そして一言「だらしない」と吐き捨てると、そのまま出て行ってしまう。
一方ラルフは、何が起こったのかわからない様子であった。
ただ何度もエイルの名前を呼び、行かないでほしいと懇願する。
しかし、エイルが戻ってくることはない。
その時、タイミングよく扉が開かれた。
「エイルが帰ってきた」と判断したラルフが飛びつこうとするも、姿を現した人物を見た瞬間固まってしまう。
相手もおかしな姿で固まっているラルフに驚くも、何事もなかったかのように一通の手紙を手渡す。
これこそ、進級試験の合否だ。
ラルフは引っ手繰るように受け取ると、中身を確認する。
そして書かれていた文字に、悲鳴を上げた。
「有難う」
同じ頃、エイルも合否が書かれた手紙を受け取っていた。
それを受け取ると扉を閉め、壁に寄り掛かりながら中身を確かめる。
無造作に封を開けると、まずは採点がされているテストを眺める
「……ああ、間違えた」
満点を取るつもりで解いたテストであったが、残念ながら満点ではなかった。
何処で間違えたのだろうと問題を読み直すと、ほんの少しの認識違いによるものだと気付く。
どうやら、固定概念が邪魔をしたようだ。
続いて取り出したのは、実習の採点。
これに関しては文句の付け所はなく、満点を貰っていた。
エイルにしてみたら実習より普通に勉強をする方が好きなので、此方で満点を取っても嬉しくはなかった。
「まあ、このようなものか」
周囲が予想した通りエイルは進級試験に合格をしていたが、嬉しそうな様子を見せない。
「進級して当たり前」という考えがあったからだろう、淡々とした表情を作り手紙を寝台の上に置く。
しかし、内心はホッとしていた。
合格を宣言していた為に、落ちることはできない。