ロスト・クロニクル~前編~

「なあ、何がはじまるんだ」

「試験だよ」

「違う違う。どのような魔法を使うかってこと」

「多分、基礎の魔法じゃないかな」

 基礎といっても、簡単に済まされる内容ではない。あらゆる魔法は基礎を真面目に学んでいなければ、使うことができないからだ。試験ではそれを含め、各種の属性魔法を見ていく。

 その為、基礎を見ればその人物の実力がわかってしまう。それに、採点を下すのはその道に精通している人物。どのような誤魔化しも通用せず、授業で真面目に学んでいないと判断した瞬間、容赦なく不合格を通達する。それだけ魔法という力は、扱いに注意しないといけない。

「エイルは、大丈夫だよね」

「その根拠は?」

「天才だから」

 その曖昧な内容に、エイルは肩を竦めていた。もしエイルが天才であったら、メルダースで学ぶ必要などない。いくら奨学金制度が充実しているとはいえ、普通の家庭が難なく払っていける学費ではない。

 ラルフが言うようにエイルが天才としたら、態々高い学費を払ってメルダースで学ぶ必要があるというのか。それ以前に天才というのは、どのような定義を持って言われるのか不明である。

 物語に登場する「魔導書を読んで、簡単に魔法を使える」という人物が天才だ。それは魔法を知らない人物が、必ずといって言う言葉である。しかし残念ながら、この世界の魔法はそれほど簡単ではない。

 実のところメルダースに入学志望の人物の中に、このような考えを持つ者がいないわけではない。その後真実を知り、入学を諦める者も多い。それだけ魔法は、学ぶのに時間と労力が必要だ。エイルはラルフの言葉を受け入れることはせず、寧ろ天才という言葉を否定する。

「僕は、ラルフが天才だと思うよ」

「わお! 嬉しいな」

「調合している薬が、全くの別物に生まれ変わるのだから。ポーションで、爆発させたしね」

「あれは、普通に調合しているよ」

「普通に調合していたら、爆発なんて起こさないだろう。だから、ラルフは天才だと思うよ。危険な方面の。だけど、どうしてなのかな? 普通は、爆発は起こさないよ。それを爆発させてしまうのだから、危険人物だと思っても仕方がない。本当に、どうしてこうなってしまったのか」
< 242 / 607 >

この作品をシェア

pagetop