ロスト・クロニクル~前編~

 相変わらずの厳しい言葉であったが、今日のラルフはへこむことはない。どうやらこれに関して耐性を生み出してしまったらしく、他人事という雰囲気で聞いていた。だが、その反応がエイルの毒吐きを強める。

「ラルフは、奨学金だったな」

「そうだよ。金持ちじゃないし」

 その答えに、エイルの瞳が怪しく光る。奨学金を貰っているということは、後で返金しないといけない。しかしラルフの場合、奨学金だけでは済まない。奨学金の返済に含め、メルダースの修繕費が加算される。クリスティの性格上、無料で修繕してくれるとは思わない。

 きっちりメルダースの修繕費も、払わされるだろう。つまりラルフは、奨学金の他に借金を作っていることになる。それを知らないラルフは、毎日のように仕送りの金を使っている。

 結果、手持ちの金額はないに等しい。また、身についてしまったおかしな金銭感覚。少しは節約を覚えるべきであろうが、狂ってしまった感覚を取り戻すにはかなりの労力を必要とする。卒業後が大変だろう。果たして、借金全額返済ができるか――残念ながら、期待はできない。

「それなら、給料が良い場所に就職しないと」

「そうなんだよな。メルダースの学費って、意外に高いし。留年した分も、支払わないといけないよな」

「当たり前だ」

「良い就職先、ないかな?」

「その前に、卒業だろ」

「うっ! 痛い言葉」

 何も知らないということは、これほど幸せなことなのか。エイルはラルフの姿を見て、そう確信してしまう。もし自身の借金の金額を知っていたら、ラルフは驚いて逃げ出すだろう。だからといって、踏み倒しは許されない。この場合、黙っているのが得策と判断する。

「エイルは、奨学金?」

「違う」

「金持ちなんだ」

「金持ちじゃない。普通の家だし」

「そうだよな。金持ちなんて、一部の人間だけか」

 メルダースに通う全員が全員、金持ちの家とは限らない。その大半――八割以上が、普通の家系の出身なので、多くの生徒が仕送りで勉学に励んでいる。そして長い学園生活は、家系の負担になってしまう。これから見えてくるのはメルダースの内情というのは、金と学力が比例しないということだ。
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