ロスト・クロニクル~前編~

「……わかりました」

「後は、僕が何とかする」

 その提案とは、アルフレッドを街の入り口で放り出すというものであった。一応、目的の街までは連れて行くが、それ以上は一緒にいられない。それに言ったところで聞いてはくれないので、強硬手段を取る。その方法とは、馬車の扉を開き強制的に叩き落すというもの。

 正直、アルフレッドとは最後まで付き合っていられない。もし連れて行ってしまったら、実家に乗り込んで来る可能性が高い。そもそもこのような人物に出す茶はなく、もし居座られたらエイルは魔法を使用する覚悟だ。それに相手はラルフと同じなので、情けは無用だ。

 ハーマンは雰囲気でそのことを察していたので、エイルの意見を受け入れていた。流石に、仕事先が崩壊しては困ってしまう。それも、何処の馬の骨ともわからない人物の所為で。

 エイルは馬車に乗り込むと、アルフレッドの足を叩く。どうやら太い足が邪魔だったのだろう、視界から消してほしいと言う。しかし、簡単に消せるものではない。アルフレッドは更に身体を縮めると、苦痛に顔を歪めていた。筋肉男が苦痛で呻く姿とは、ある意味で悪夢だ。

「出すよ」

「ど、どうぞ」

「身体が大きいと、苦労するね」

「そ、そう思う」

「此方に、顔を向けないで下さい」

「む、無理」

 確かにこの状況で、顔を向けるなという言葉を受け入れることはできない。返ってきた言葉にエイルはブスっとした表情を浮かべると、自身が横を向き、ハーマンに出すように合図を送った。その瞬間、鞭を振るう音が聞こえた。それに続き、馬車がゆっくりと動き出す。

 そして、目的の場所へ向かった。




 一時間後――

 突如馬車の中が騒がしくなったそれは、アルフレッドが笑いはじめたのだ。あの体勢で、これだけの大声を発する。肺活量が、相当なものなのだろう。その瞬間、馬が驚いてしまう。しかしハーマンの機転で瞬時に馬を宥め、事無きを得る。もし何もしなかったら、馬車は何処かに激突していた。それだけ、アルフレッドの笑い声は他人に迷惑を掛けてしまう。
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