ロスト・クロニクル~前編~

 裏工作――しかし、行われるのは親衛隊の入隊試験。そのようなことが、できるわけがない。それなら逆にエイルが不合格を狙えばいいが、今回は合格を目指さないといけないので、それは無理であった。第一、家柄の問題を重視しないといけないので、個人的な感情は二の次だ。

 嫌な人物に、出会ってしまった。メルダースのラルフといい、エイルは変わった人物に声を掛けられることが多い。そしてその人物と、長く付き合うことになってしまう。それも、腐れ縁で――

「……疲れるな」

 帰宅前の大事件に、溜息しか出なかった。暫くの間、ラルフと離れることができて喜んでいた。しかしこれでは、メルダースの生活と変わらない。果たして試験前に、何回出会うのか――出会った瞬間、あのノリで迫られることは、間違いない。そして、体力を奪い取る。

 これは、運命の悪戯か。それとも、お茶目心か。エイルにとっては、悲劇の何物でもない。

 アルフレッドと出会ったら、どのように対処すればいいのか。そのようなことを考えている内に、実家に到着していた。久し振りの我が家であったが、素直に喜ぶことはできない。それだけ、重圧が圧し掛かっていた。両親や兄だけではない。働いている者達からも、期待されてしまう。

 正直、馬車から降りるのが辛かったが、立ち止まることはできない。それに選択をして、故郷に帰ってきた。今更、後悔はできない。エイルは深呼吸し気分を落ち着かせると、馬車から降りることにした。そしてこの時よりエイルは、新しい人生と歩み課せられた運命を知る。
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