ロスト・クロニクル~前編~

 その後、試験は続けられていく。

 無論、不穏な空気は漂っていた。

 まるで、それは現在のクローディアを示しているに等しい。

 最終的な合格者は、三名。

 エイルとアルフレッド。そして、シン・ファレルという名前の女性だった。年齢は、エイルの三つ上。女性というより男性に近い井出達が印象的な人物で、アルフレッドと同じく剣を得意としていた。

 合格者は王家の守護者として任務に就くが、唯一エイルは違っていた。そう、彼はメルダースを卒業しないといけない。それにより「必ず合格」という制約の下、入隊は先送りされた。

 クローディア王国王室親衛隊。名は〈白銀の翼〉という。名の由来は、女神エメリスに関係している。

 エメリスは、美しい白の翼を持つ女神。外見は、黄金色の長い髪と黄緑色の双眸を有していると記録に残っている。エメリスは、処女神。故に白という色は神聖かつ、尊い色をされていた。

 王家は、エメリスの寵愛を受けている。

 よって彼等を守護することは、同時にエメリスに仕えているに等しい。

 その為、己自身が清廉潔白でないといけない。

 それにより王室親衛隊は、エメリスを象徴する色を用いり〈白銀の翼〉と、名付けられたという。

 しかし、正式な記録は残ってはいない。


◇◆◇◆◇◆


 廊下に、規則正しい足音が響く。

 その音を発している者――それは、シードだった。

 彼は、神妙な面持ちを浮かべ一定方向へ向かう。そう、彼は珍しく不安で仕方がなかった。

 ふと、シードの歩みが止まる。

 そして、遠くに視線を向けた。

「何用か」

「貴様には、関係はない」

 言葉を掛けてきた人物は、シードと何処か雰囲気が似ていた。その人物は色は違えどもクローディアの親衛隊と形状が似ている服を纏い、腰には剣をぶら下げている。相手は血のように赤い双眸をシードに向けており、その瞳からは好意的な印象を感じ取ることはできない。
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