ロスト・クロニクル~前編~

 情けない。

 それで、親衛隊の一員になるのか。

 言葉は、罵倒へ変化していく。

 短気の者であったら反論の言葉を発していただろうが、エイルは自身が置かれている状況を把握しているので、反論が己を追い詰め弱く惨めな人物に変えていくことをわかっている。だからこそフレイの罵倒に耐え、自身の未熟な部分を呪う。それだけ、剣の腕前は未熟だった。

 エイルは纏っている服で血を拭うと、剣を構え直す。彼は父親と違い、一本の剣で戦うスタイルを用いない。幼少の頃のエイルの身体能力を見て、二本の剣を用いる戦い方を仕込んだ。

 エイルは、どちらかといえば体型がいい方ではない。共に親衛隊の試験を受けたアルフレッドより華奢。といって、筋肉が付いていないわけではない。要は、痩せの筋肉質体型だった。

 身体の特徴は、大いに利用した方がいい。それに剣を用いるのなら、身軽な身体を発揮できる短い剣が一番だ。しかし一本では心許無いので、エイルは長さが同じ剣を二本持ち戦う。

 刀身が長いと短い場合、前者が有利に働く。剣の戦いは接近戦。少しでも、肉体を守らないといけない。それに使用している剣は研ぎ澄まされ、軽く触れた程度で肌が切り裂かれる。

 だが、悲観はしていない。

 いや、してはいけない。

 それにエイルは、負けず嫌い。

 再び、父親に飛び掛る。

「力むな」

「はい!」

「私を殺すつもりで来い」

 その言葉に、動揺が走る。それにより、一瞬動きが静止した。勿論、フレイは簡単に見抜くと目を細め、我が子を睨み付ける。「何故、動揺しているのか」無言で、圧力を掛ける。

 真剣勝負を行っている場合、相手を敵と見做さないといけない。父親と思った瞬間、負けは決定。情けは己に死神を呼び寄せ、死の国に誘われる。それに弱腰では、親衛隊の役割を果せない。

 長い言葉がかわされることはない。剣を打ち鳴らしていく中で、それを教えていく。戦いは言葉で説明して覚えるのではなく、身体で覚えるもの。フレイは、息子に強くなってほしかった。そしていずれ自身と同じ地位にいってほしいと思っているので、ついつい厳しくなってしまう。
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