ロスト・クロニクル~前編~
普通、特に意識していない。しかし今、マナはジャネットと呼んだ相手を強く意識してしまう。
全ては、エイルから貰った紙が関係している。
ジャネットに紙を見られたくないと、反射的に後ろに隠す。だが、不可解な行動は目立つ。ジャネットは首を傾げつつ何を後方に隠したのか聞いてくるが、マナは顔を横に向けた。
「怪しい物?」
「違うわ」
「何、慌てているの?」
「本当に、何でもないの」
大人しく物静かなマナが、動揺している。彼女の態度を間近で見たジャネットは、親友の身に何かが起こったと判断を下す。同時に、これ以上この事に関して追求してはいけないと思う。
流石、親友同士。
空気を読むのは上手い。
「……御免」
「いいのよ。気にしないで」
「有難う。それと……仕事はいいの?」
「私の仕事は終わったわ。マナを捜していたのは、一緒に昼食を食べようと思ってね。まだでしょ?」
「うん。でも、仕事が――」
「床掃除って、今日のマナの仕事?」
「違うわ。本当が別の方だけど、その方の親が病気で……今、家に戻っているの。で、私が……」
そういえば、そのような話をメイド仲間が話していたことをジャネットは思い出す。まさか、その人物に割り当てられていた仕事の代理がマナだったとは……これでは、一緒に食事ができない。
しかし、迷いはなかった。最善の方法は、わかっていたからだ。そう、一緒に掃除を行えばいい。
特に、面倒という感覚はない。寧ろ、マナと一緒に食事がしたいので、早く仕事を済ませてしまいたかった。ジャネットは軽い口調で掃除を手伝うと言うと、掃除用具が置かれている場所へ向かう。
そして彼女が戻って来た時、手にはモップと雑巾が握られていた。モップは床を拭くに欠かせない道具だが、雑巾の意味がわからない。マナは雑巾に視線を向けつつ、どのように使用するか聞く。一方ジャネットにしてみれば、使用方法がわかっていると思っていたので、意外という表情を作る。