ロスト・クロニクル~前編~
ひとつの事柄を学んでいると、どうしても考えに偏りが生まれる。
偏った価値観では物事の本質を掴むことができず、将来苦労してしまう。
だから今のうちから偏った価値観を直してしまおうと、教師達の愛情を感じないこともなかったが、合同ということも関係し内容は難しい。
今回の内容は、薬草学。
毎回授業内容は異なり、どのような課題が出されるかは、当日までわからない。
だが、生徒達は二人一組で授業を行うことは事前にわかっていることなので、前日からパートナー捜しに余念がない。
その為「合同授業」という単語を聞いた瞬間、生徒達は行動する。
「あいつのお守りは、大変だよな」
「僕がペアを組んでやらないと、誰も組まないだろ? 本当は、別の生徒と組みたいと思うけど」
「ボランティアは、大変だな」
「そう思えば、辛いとは思わないよ。さて、問題の人物の所に行かないと。少しは良くなっただろう」
「そういえば、無事なのか?」
「大丈夫だよ。タフだし。そうでなければ、今頃死んでいるよ。あのオオトカゲに噛まれたんだから」
「確かに。で、お互い頑張ろう」
エイルは軽く手を上げクラスメイトに返事を返すと、授業で使用していた一式を脇に抱え教室から出て行く。
するとエイルを待ちかねたように、数人の女子生徒が声を掛けてきた。
着ている制服の色からして、ラルフと同じ専攻の生徒。
どうやら次の時間、同じ授業を受ける生徒のようだ。
「何?」
「もし宜しかったら、ご一緒できますか?」
「私達、まだ相手がいなくて……」
「バゼラード君がいると、心強いわ」
「残念ながら、相手がいるんだよね」
教室から出てきた先程のクラスメイトが、エイルの代わりに答える。
すると女子生徒達は残念そうな表情を浮かべ、何やら話し込む。
どうやら、当てが外れたという感じのようだ。
一見、簡単そうに思われる薬草学であるが、微量の調合の間違えで全く違うものが出来上がってしまうほど、調合は難しい。
エイルに声を掛けてきた女子生徒は、難しい調合をエイルに行ってもらおうと考えていた。進級試験、一度も落ちたこともなく、知識の高さは折り紙つき。
だが、将来研究者を目指す者達。こんなことを人に頼っていては立派な研究者になれないと、そう思うエイルであった。