ロスト・クロニクル~前編~
エイル自身単位に余裕がなかったら、違う生徒とペアを組んでいただろう。
やはり、何事も自分の身を中心に考えてしまう。
他人にまで目を向けられるのは、余裕がある時だけだった。
「いつ単位を」
「お前と違って、授業は真面目に受けているからね。それに休んだ場合も、その後の補習は受けている」
「お、俺も受けているぞ」
「じゃあ、テストの点数じゃないかな。よし、僕がこの場でラルフにテストをしてあげるよ。このページに載っているハーブを探してきて欲しいな。ポーション用の材料だから、間違えたら承知しないぞ。意味は、わかっているよね。絶対に、単位を落としたくないんだろう」
「い、一応」
「一応?」
「が、頑張ります」
「よろしい」
その爽やかな笑顔に、ラルフの表情が引き攣ってしまう。
エイルの怒り方には、いくつか段階が存在する。
このような笑顔の時は、安心していい。
更に表情が崩れた時、水が沸騰する寸前。
そして無表情の時は、どのような言い訳を繰り返しても無駄。
その数分後には、火山が噴火をする。
それを見事に表しているのが、フランソワーの件と言っていいだろう。
流石に拳が飛んでくるということはないが、その代わりに魔法が炸裂する。
人間に対して不必要な魔法攻撃は禁止されているのだが、エイルはラルフに対して容赦という言葉は持ち合わせていない。
初級から中級――更に上級の魔法も平気な顔で詠唱し、問答無用で発動させてしまう。
勿論ラルフに直撃させるということはしないが、もし上級の魔法が直撃したら命の保障はない。
最悪の場合、肉体そのものが吹っ飛んでしまう。
それほど、エイルが使用する魔法は強力だった。
「魔法は、止めてほしいな」
「こんな場所で、魔法は使わないよ。ハーブに何かがあったら、ハリス爺ちゃんが怒るだろ?」
「ほ、本当?」
「ハリス爺ちゃんは怖いし」
つまりハーブ園の敷地の中に入れば、魔法で攻撃される心配はない。
だが、一歩外に出れば魔法攻撃に晒される確率が上がってしまう。
といって一生ハーブ園で暮らすわけにもいかないので、安全な場所はない。
それなら日頃の性格を改めるのが一番だが、ラルフにそれを期待するのは無理である。