ロスト・クロニクル~前編~
「多分、これだよ」
エイルが示したのは、ポーションが入った小瓶だった。
そこからは、果肉が熟れたような甘い香りが漂う。
一般的に出回っているポーションは薬草の香りが強く、大量に服用できる代物ではない。
しかし、このポーションは違う。
まるで、砂糖水をそのまま小瓶に詰めたような感じだ。
エイル曰く「子供に用いるポーション」らしい。
ポーションひとつに大人用と子供用が存在するということは、それだけ使われる用途が高いことを示す。
その為、知識と材料があれば簡単に調合できる。
ラルフは、そのことを知らないという。
その訳は、ポーションを使用したことが一度もないからだという。
だがそれは間違った認識で、フランソワーに噛まれて入院した時、大量に服用していた。
「ちょっと苦い液体か」
「ちょっと苦いどころじゃないと思うけど」
「美味かったぞ」
「そ、そうか」
ポーションを「美味い」と言うのは、ラルフくらいしかいないだろう。
だとしたら、他の薬も美味しいと言っている可能性が高く、苦味」を感じる感覚が完全に麻痺している可能性が考えられる。
「そのポーション飲んでみたいな」
「これは、提出用だ」
「ちょっと一口」
「駄目だ」
「いいじゃないか」
完全にポーションの虜になってしまったのか、提出用のポーションを飲もうとする。
その時、頭上を旋回していた烏がラルフに向かって突進してきた。
そして鋭く尖った嘴で、背中を突付いていく。
「痛っ!」
続いて、二匹目の攻撃が攻撃を仕掛ける。
今度は、頭を突付いていった。
黒い集団に襲われラルフを、周囲は眺めるしかできない。
その数に圧倒され、どうやら助けに入れないらしい。
「ラルフ何をした!」
「俺は、何もしていない! た、助けて~」
黒い塊が、ラルフを飲み込んでいく。
この光景に危険と判断したエイルは珍しく救いの手を差し伸べようとしたが、生身であの中に入っていったら確実に命を落としてしまう。
そう考えると、残された方法はひとつしかなかった。
それは、魔法を使用して追っ払うやり方だ。