ロスト・クロニクル~前編~

「腕に縒りをかけて、作ったのよ」

「量がありますね」

「成長期の子供は、いっぱい食べないと大きくなれないわ」

 そのように言われるが、朝からこれだけの量を食べる自信はない。

 エイルは大食いというわけではなく、どちらかといえば小食。

 なので、おばさん達に悪いが全部は食べきれない。

「この半分がいいです」

「あら、そうなの? 明日のメニューは、何にしようかしら」

「でも、全部食べてくれると嬉しいわ」

「は、はい」

「照れているわ。可愛いわね」

 この特別扱いは、エイルのみに行われていた。

 他の生徒や教職員には、このように多くの料理を出されることはない。

 特別扱いの理由としては「メルダースの中で、一番真面目だから」ということらしいが、おばさん達の過剰なサービスは時として迷惑となってしまう。

 しかし、相手は楽しんで行なっているので文句は言えない。

 その時、タイミングよく知り合いが食堂に姿を現す。

 相手もエイルの姿に気付くと、真っ直ぐ此方のテーブルに向かってくる。

 そしてテールブルいっぱいに並べられた料理を見るなり、驚きの声を上げていた。

 おばさん達のエイルに対しての過剰なサービスは、ある意味で有名といっていい。

 サービスに関して「贔屓だ」という言葉もるが、美味し料理が回されるので同学年からの文句は少ない。

 今回エイルは、それを行おうとしていた。

 それができる人物が、目の前に現れたからだ。

「それじゃあ、シッカリ食べるのよ」

 そう言い残し、おばさん達は厨房へ戻って行く。

 エイルは並べられた料理を眺めつつ肩を竦めると、目の前にいる知り合い――ケインに、料理の半分を食べてくれないかと頼んだ。

「残せない」

「それもそうだね。じゃあ、遠慮なく」

 ケインは椅子に腰掛けるなり、どの料理を食べようかと選んでいく。

 一方エイルは、ベーコンとスクランブルエッグが乗せられた皿をケイン目の前に押し出すと「これを食べて欲しい」と頼んだ。

 その理由として、脂っこい物を朝から食べると胃がもたれる原因になるという。

 それに続き、ケインの前に差し出されたのはコーンスープにトースト。

 結局エイルの目の前に残った料理というのは、サラダとオレンジジュース。

 つまり、エイルの朝食はこれだけでいいということになる。


< 92 / 607 >

この作品をシェア

pagetop