ロスト・クロニクル~前編~

「小食だな」

「夏は、特に食えないんだよ。ほら、早く食えって。おばさん達に見つかったら、後が煩い」

「そういうことなら、有難く食わせてもらう。こんなに豪勢な朝飯は、本当に久し振りだな。日頃は、質素な食事ばかりだったし。夏はスタミナをつけないと、倒れてしまう。だから、助かった」

 ケインはフォークを手に取ると、美味しそうに料理を食べはじめた。

 この時期は、どうしても食欲が低下してしまう。

 小食の者が、更に食べなくなってしまったらどうなってしまうのか――そっと腰に手をやり、エイルは自身の体系を確認する。

 その瞬間、衝撃的な事実に気付く。

 そういえば腰の周辺が細く、この調子でいくと夏の間にかなり体重が減るに違いない。

 このことを女子生徒が聞いたらさぞかし羨ましがるだろうが、エイルにとっては大問題だった。

 腰周りが緩いということは、新しく服を購入しないといけない。

 何かと金が掛かる学生生活。実家が裕福でない限り、楽な生活を送れない。

 そのエイルの実家は裕福な家系なので金銭面に困らないが、父親の財布の紐が硬いので毎月決まった金額しか仕送りをしてくれない。

「顔色悪いぞ」

「うーん、金が……」

「貧乏学生は、辛いよ。で、知っているか?」

「隣のクラスの話? なら、知っているよ。親に強請って、買ってもらったと聞いた。まったく、いい身分だよ」

 二人が話す“隣のクラスの奴”というのは、金持ちの坊ちゃんのことであった。

 「裕福な商家の跡取り」という話を聞いたことがあるが、本当のところは定かではない。

 だが高価な品物を躊躇いもなく買えるということは、強ち嘘ではない。

 また、高級品を常に身につけている。

「そう、そのお坊ちゃまがご購入されたのは……」

「水晶だろ?」

「知っていたか。流石、エイル君だね。まあそれはいいとして、あいつの魔法力はどのくらいなんだ?」

「中の下だと思ったけど」

「はーん、なるほど」

 一般的に、水晶は二種類の使い方をされる。

 ひとつは指輪やネックレスなどに加工し、身を飾る物。

 もうひとつは、魔法の補助アイテムとなる。

 昔より水晶は大地の力が結晶化したものとされ、アクセサリーとして加工される前は魔法アイテムとして使われることが多かった。


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