巡り合いの中で

 だから、少女は動く。

 だが「この場所に主人がいる」と正確な情報を持っているわけではないので、行き当たりばったりの捜索は、無駄に体力を消耗してしまうことになってしまう。

 しかし「早く主人に会いたい」という気力のみで立ち上がると、ふら付く足取りで巨木の下から出ようとする。

「あっ!」

 その途中濡れた草に足を取られたのか、少女は全身を打ち付けるかたちで転んでしまう。

 身体に伝わる激しい鈍痛以上に、足首に走る激痛に思わず顔を歪めてしまう。

 恐る恐る激痛が走る足首に目をやれば、落ちていた物によって傷付けてしまったのか足首の一部分が裂けていた。

 思った以上に深い傷らしく、止まることなく流れ出ている鮮血は多く白い肌だけではなく草を赤く染めていた。

 これほどの傷は早めに手当てしないと化膿し大変な目に遭うことはわかっていたが、準備をせずに飛び出したので今この傷を手当てする道具は持ち合わせていない。

(どうしよう)

 この傷では歩行は困難で、それに雷雨の中少女のように出歩く者は滅多にいない。

 自分が発見されるのは、一体いつになるのか――

 いや、それ以上にこのまま手当てされない状況で過ごさないといけないことに、少女の心の中には絶望感と同時に諦めに似た何かが湧き出す。

(二度と……)

 刹那、涙が流れ落ちる。

 怖い。

 助けて。

 一歩一歩と確実に忍び寄って来る顔の無い影に、何度も「来ないで」と呟くが、呟けば呟くほど引き寄せてしまうのか影が近付いて来る。

 少女が見ている影は幻覚なのか、それとも本当に存在している生き物なのか――影が少女を覆い尽くそうとした時、轟音が響き渡る。

 一瞬にして少女の視界が暗転し、色彩が消滅する。

 轟音は少女の意識を別の世界へ飛ばし、現在の世界との繋がりを断ち切る。

 轟音の消滅後、少女が雨宿りしていた巨木は赤々と燃え上がり、

 周囲を眩しく照らし出す。

 巨木で羽を休めていた鳥達は一斉に逃げ出し、何処かへ行ってしまう。

 そして、少女は――

 まるで神隠しにあったかのように一瞬にして消え去り、唯一少女がいたことを証明してくれるのは血の跡のみ。

 それも降り頻る雨によっていずれ全てが流され、証拠自体失われてしまう。

 誰も少女がこの場所にいって、何かの切っ掛けで神隠しにあったことさえ知らない。
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