レンタルな関係。
 二人で食事の片づけをしてから、ソファに腰かけて。

 笑いながらテレビを見て。

 時間は普通に過ぎていった。


「要くん」

「ん?」

「今日さ…」

「ん?」


 言ってから、はっとする。

 
「あ、なんでもない」

「ん? なんだよ。なんかあった?」

「あの…」


 口ごもって。

 でも、無意識に動いてしまう口は。


「今日…どこ…行ってたの?」


 聞いてしまう。


「え? 今日?」

「…うん」

「友達んとこ。合宿のときに借りてたものがあってさ。返しに行ってきた。ついでに買い物につきあったり」

「そう…」


 要くんは。

 別に慌てることもなく普通に私を見下ろしている。

 その話は、きっと本当なんだろう。

 たぶん、カフェで会ってたあの男の人のことだ。


「あのね…」

「ん?」


 …ダメ。

 動くな、私の口。


「今日ね…」

「うん?」


 ダメだって。

 聞いたら…

 現実になっちゃう。


「私…隣町のデパートで夕飯の買い物したんだ」

「そなの? わざわざ?」

「うん…。この辺、いいお店ないから」

「そうなんだ。大変だったろ、荷物運んでくるの。さっき冷蔵庫見たらかなりいっぱい詰め込んであったし」

「うん。手も腰も痛くなっちゃった」


 はは…と笑って、要くんを見上げる。

 微笑んだ要くんは、私の頭に手を伸ばして、

「ごくろうさん」

 くしゃりと髪を撫でる。


「でね、途中で疲れちゃって」

「うん」


 …もう、いいじゃん。

 こうやって撫でてもらってるってだけで。

 それでいいじゃん。

 なのに、


「駅前の…銀行の隣りのね、カフェに入ったの。休みたくて」

「…カフェ?」

「…うん」


 頭を撫でていた要くんの手が。

 …止まった。






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