蜜は甘いとは限らない。【完】




少し乱れた髪を手櫛で整えて聞けば、90度に腰を曲げ、頭を下げる。




「手荒な真似をして、申し訳ございません。
旦那さまから手荒な真似をしてでも連れて来いと言われましたので」

「まだ抵抗してもないのに、酷い扱いね?」

「抵抗なさるのは、目に見えてましたから」

「へぇ、流石ね?山中?」




お褒めの言葉として、受け取らせて頂きます。



そう言って顔を上げた山中。

この間のパーティであたしにブローチを渡してきた、あの人の“犬”だ。



山中 寛太(やまなかかんた)



オールバックにまとめられた髪をワックスで固めていて、いつも目を閉じているかのように細い目はうっすらとこちらを見ていて。




あたしは山中が、嫌いだ。




「これ以上は、手荒な真似をするつもりはありません。
付いて来てくださるのであればですが」

「…それは、あたしが抵抗すればさっきのようにするという事?」

「はい」

「…なら少しだけでも、試してみようかしら」

「!!」



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