蜜は甘いとは限らない。【完】
そのドアを開けている山中に軽く背中を押されて乗る。
…なんか、上下関係のないような扱い。
まるで昔からあたしのことを知っていたみたいに。
まぁ、若いはずの山中が昔から嵐川にいたわけがないのだけれど。
動き出した車に揺られながら、そんなことを考えた。
「お嬢様」
「…何?」
「今日は1言も話さないようにしてください」
「は?なんでよ」
「何でもです」
「……あ、そ」
助手席に座っている山中の声とあたしの声が、静かな車内で響く。
珍しく、「旦那様に命じられましたので」を言わなかったのは、あたしがそれをしっかり聞かないから?
それとも、その言葉は山中の意志だから?
…考えるの、やめよ。
これからもっと頭のこんがらがるような所に、行くのだから。
そういえば、絢梧は来るのかな。
今日は平日で、学生の絢梧は学校があるけど、なんとなく来てくれたら自分の気が楽になるような気がした。
「着きました」
「…お嬢様、降りてください」
「降りないでこのまま車に乗ってろって?」
着いたことが分かってるのに態々言われて腹が立つ。
…こう思うのは、あたしが万年反抗期だからなのだろう。
分かっていて、直そうとしたことはないけれど。