黒の瞳
 ――エキシビションで選手達は、昨日までとは違った雰囲気の衣装で、新たな一面を見せてくれる。ハットや傘を小道具にするもよし、ジーンズやTシャツでラフに決めるもよし。私が最も注目する選手は、水色と薄桃色のグラデーションに、スパンコールを散りばめた着物風の衣装で演技に臨んだ。



「松中、寂しくなるな。お前、園田選手の大ファンだっただろう。」



 部長に肩を叩かれて、小さく首を横に振る。意外だという風に目を丸くした彼は、うっすらと笑みを浮かべて、隣に腰かけた。



「……昨日色々聞かせてもらって、改めて応援しようって思えました。いつかひょっこり戻ってきてくれたらって、考えることはあるかもしれない。でも、どう生きても、それが彼女の人生だから……私はファンとして、彼女のことを何処かから見ていられたら、幸せなのかなって思います。」



 そうか、と短く聞こえた声。それが妙に心地良くて、自然と口角が上がる。間もなく、季節の移り変わりを表した衣装を纏った妖精が、花びらが散りゆくようなピアノの伴奏に合わせて、華麗に滑り始めた。
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