演劇部の記憶
わたしは部屋に戻り、ウエットティッシュで化粧をふき取って、一息つくとそう聞いた。
「宮沢さんから全部聞いちゃったんですか」
「お前のおばさんね」
わたしはそう答えた。一度、弘は下を向いた。そして、それからゆっくりとしゃべり始めた。
「あの脚本は、僕の秋田の高校時代の後輩の作品です」
「そして、その友達は、あんたが脚本のできを注意したら自殺をしたと」
わたしは、弘の横に座った。弘は、しばらく答えない。そして、また口を開いた。
「だからこそ、この脚本でいい賞を取って、そういうことをした後輩の償いにしたらどうかということをおばさんに言われて、僕もそれが言いかなと」
「演劇再開したらと言ったのはおばさんなのか?」
「はい」
わたしは、それに対して、何も答えなかった。弘が何か悪いことでも言ったかという顔でこっちを見たが、わたしは、さっきマスターに言われた言葉を復唱していた。たしかに、演劇をしたいという弘に、マスターがこの作品で若者の祭典にでるよう言ったと言っていたはずだ。それが演劇を再開するよう勧めたの自体がマスターからなんて。
結局、大人は、自分が都合のいいようにする。わたしは、マスターに疑念を持った。そして、それに相反して、弘が嫌うべき相手ではないような気がした。
「弘ももう寝たほうがいいよ。明日早いんだから。でも、ベッドがないし、弘、ソファーでいい?」
「ぜんぜん、OKです」そうして、わたしは部屋の電気を消した。
その翌日、大会では4位に入賞した。3位までが出場権を持つ全国大会には進めなかった。だけど、この2ヶ月で大きな変化がみんなにあった。たとえば、弘も大会で入賞したときは大会マスコットの地球の人形を抱きながら満面の笑みを浮かべ、「笑えたのはあのとき以来初めてです」と言った。
わたしにも大きな変化があった。大会の後、マスターにも一度入賞報告に行ったが、かつてほど喫茶店が居心地のいい場所ではなくなっていた。それは、高校で、弘と一年生たちが1年後の演劇に向けて頑張るのを見るという楽しみを見つけたせいか、はたまた、マスターへの疑念が自分の中で消せなかったのかわからなかった。
とにかく、わたしの生活のメインは高校に戻ったようだった。
「宮沢さんから全部聞いちゃったんですか」
「お前のおばさんね」
わたしはそう答えた。一度、弘は下を向いた。そして、それからゆっくりとしゃべり始めた。
「あの脚本は、僕の秋田の高校時代の後輩の作品です」
「そして、その友達は、あんたが脚本のできを注意したら自殺をしたと」
わたしは、弘の横に座った。弘は、しばらく答えない。そして、また口を開いた。
「だからこそ、この脚本でいい賞を取って、そういうことをした後輩の償いにしたらどうかということをおばさんに言われて、僕もそれが言いかなと」
「演劇再開したらと言ったのはおばさんなのか?」
「はい」
わたしは、それに対して、何も答えなかった。弘が何か悪いことでも言ったかという顔でこっちを見たが、わたしは、さっきマスターに言われた言葉を復唱していた。たしかに、演劇をしたいという弘に、マスターがこの作品で若者の祭典にでるよう言ったと言っていたはずだ。それが演劇を再開するよう勧めたの自体がマスターからなんて。
結局、大人は、自分が都合のいいようにする。わたしは、マスターに疑念を持った。そして、それに相反して、弘が嫌うべき相手ではないような気がした。
「弘ももう寝たほうがいいよ。明日早いんだから。でも、ベッドがないし、弘、ソファーでいい?」
「ぜんぜん、OKです」そうして、わたしは部屋の電気を消した。
その翌日、大会では4位に入賞した。3位までが出場権を持つ全国大会には進めなかった。だけど、この2ヶ月で大きな変化がみんなにあった。たとえば、弘も大会で入賞したときは大会マスコットの地球の人形を抱きながら満面の笑みを浮かべ、「笑えたのはあのとき以来初めてです」と言った。
わたしにも大きな変化があった。大会の後、マスターにも一度入賞報告に行ったが、かつてほど喫茶店が居心地のいい場所ではなくなっていた。それは、高校で、弘と一年生たちが1年後の演劇に向けて頑張るのを見るという楽しみを見つけたせいか、はたまた、マスターへの疑念が自分の中で消せなかったのかわからなかった。
とにかく、わたしの生活のメインは高校に戻ったようだった。