演劇部の記憶
君たちもだいぶ練習して疲れただろ」
 そう言ってお父さんが月見うどんを持ってきてくれた。
「すみません。ごちそうさまです」
 弘たちはそう答えた。
「あれ?今日は肉うどんじゃないの?」
 わたしはそう聞いた。
「ちょうど切らせていたんだ」
 お父さんはそう言って家に戻って行った。
「いいおじさんですね」
「いや~、こんな時に鶏肉切らして、卵だけのうどんだすなんてね。気の利かない親だよ。うちの親、食肉卸業者に勤めているから、いつもいろいろな肉があるんだけどねぇ」
 わたしはそう言いながら、ここ2ヶ月くらい家の食卓にも鶏肉が上がらないなとふと疑問に思った。しかし、弘が「練習再開しましょう」と言ったので、わたしもこれ以上深く考えず練習に戻った。
 
「明日、風邪ひいても困るし、そろそろ終わろうか。そうだ、1年3人でここの小道具、明日まで預かって明日持ってこいな」
「わかりました。じゃあ、終電で帰りたいんで失礼します。お疲れ様でした」
 そう言うと、荷物持ちという雑用を押し付けられた3人は帰って行った。しかし、弘は、携帯を見ながら動かない。
「帰りのバスもうないし……、タクシー呼ぼうかな」
「よければ、わたしの所に泊まる?」
 女子高校生が男子高校生を自室に泊めるなんて、「不用心だ」とか親に怒られるかもなとわたしは思った。しかし、さっきマスターから聞いた話を弘に聞いてみたい気持ちもあった。それには、明日はまた他のみんなもいるのだから、今日の夜のうちにわたしの部屋で聞くのが一番都合いいと思った。

「さっきマスターから聞いたんだけど、この脚本、弘が書いたものじゃないんやろ?」
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