演劇部の記憶

――嘘やろ……。

　わたしは、携帯を手にとって自宅の番号を押した。
「お母さん？わたし」
『ああ、あんたかい。ハートフル畜産のこと？』
「そう、お父さんどうしている？」
『今朝から書斎にこもったまま……。外には報道陣が元事務局長宅っていうことで押し掛けているし』
「でも、お父さんがやるようなことはないよね？」
　電話の向こうでチャイムが鳴った。
『お父さんがしはることは絶対ない。あんたは心配せんでいい。電話切るね』
　そういうと、お母さんは電話を切った。

　わたしは、ベッドの上に横になった。考えれば考えるほどお父さんが偽装に手を染めていないという証拠は薄いように思える。大人なんて信用できない。
その時、わたしの携帯電話がまた鳴った。わたしは、お母さんからだと思い、携帯を取った。

『チクリ魔。あんたにもこの苦しみ味わわせてやるわ。』

　野太い男の声でその一言だけ言うと電話は切れた。
　そして、しばらくすると携帯がまた鳴った。わたしは一度携帯を手に持ったが、また、「間違い電話」だったらどうしようと思い手が止まった。そのうちに電話の着信音は鳴りやんだ。留守番電話が起動した。
――あんたのとこがやったことをうちにおしつけやがって。親によく伝……
「イヤー」
　そう叫びながらわたしは携帯電話の電源を消した。そしてベッドの中に潜って頭を抱えた。……うそや。わたしはなにも関係ない。
　そう思いながら、わたしはそのまま眠りについた。
　
翌日。新聞の一面の見出しは『ニ社社長「障害者に偽装をさせればばれないと思った」』だった。
　わたしの中には、もうこの記事は読みたくないという心もあった。しかし、一晩寝たことで少し気分がよくなっていたせいか、この事件についてもう少し知りたいという気持ちがわたしの中で勝った。
　新聞を一枚めくると、元役員の取材記事が載っていた。