演劇部の記憶
エピローグ
今年の四月。当然のように弘もここに進学をしてきた。昨年度、大学に行かなかったわたしは留年してまた1年生だった。そして、2人で演劇をやろうと弘に誘われ、また演劇サークルを立ち上げた。
「先輩、演劇サークル一緒に立ちあげません? 」
「もう同期なんだからタメでいいよ」わたしは弘にそう言った。
「いや、僕にとって先輩はいつまでも先輩ですよ」
今度は、弘にわたしが救われた。半年前は自宅に引きこもっていたのに、今こうやって大学生活を送られるのだから。いや、2年前もそうなのかもしれない、野球ができなくなって、落ち込んでいるわたしを救ってくれたのが、弘なのである。弘に先輩顔できるほどわたしは立派じゃない。


 そしてまた、わたしは2年ぶりに、《演劇の祭典》に出場できた。ここまで戻ってこられた。そんな時に風邪をひくなってついていないな、そう思いながらわたしはベッドから起き上がった。そして、弘が買ってきてくれた月見うどんを手に取った。卵の殻を割り、一口ずつすすっていく。それから、弘がもってきてくれたパンフレットを見た。わたしたちのチームの数チーム後に見慣れたチーム名があった。チーム紹介の欄には《2年前、当時の高校1年生から3年生までの5名で演劇部を立ち上げた。部設立時の1年生が3年生となり、有終の美を見せる。全国大会2年連続2回目の出場》とあった。
 ああ、2年前のメンバーはみんな演劇を続けている。弘には、いつだったか「3人とも今年も演劇を続けているはずですよ」と言われていたが、改めて文字で見るとみんな続けているんだと実感がわく。
 明日の大会が終わったら、喫茶「宮沢」に行ってみよう。そうしたら、2年ぶりにマスターに会えるはずだ。うまくすれば、2年前のメンバーが全員集合できるかもしれない。それから1年半ぶりにお父さんに会いに実家にも帰ってみようか。わたしは、そう考えた。
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