演劇部の記憶
夕方、わたし以外のメンバーは授業を終えた高校から、わたしはマスターとともにいつも練習をしている近くの河原の橋の下に集まった。

「じゃあ、今日は、弘が野球ができなくなったことを苦にして自殺を考えるシーンからいこうか」
「そこからですか……」
 わたしの言葉に対して、主人公役の弘はそう呟いた。そして、大きく息をはいた。
「弘……? 前に。縄を持って自殺考えるとこから」
「そこから……」
 その言葉をさえぎってマスターが横から「別に途中からじゃなくていいよ…」と言ったが、その瞬間、弘がその場に倒れた。
「弘くん、弘くん」
 そう言ってマスターが弘に近寄ってきた。そして、マスターが弘を病院に連れていき、その日の練習は中止となった。

 翌日、放課後の練習の前に高校に行った。昨日倒れた弘が高校に出てきているかどうかが気になった。しかし、その日、2年生の教室に行ってみたが弘はいなかった。昼ごろ、わたしの携帯に「熱が39度くらいあるんで今日の練習休ませてください」というメールが入った。
 
 放課後、いつもの待ち合わせ場所である喫茶「宮沢」に行った。わたしが行った時、店の前には1年生が3人で立っていた。
「あれ? マスター中にいなかったの?」
「マスターいないんですよね。今日、休みなみたいです」
 「宮沢」のドアに〈本日、都合によりお休みとさせていただきます。〉と手書きの紙が貼ってあった。

 その日の練習は4人でやることとなったが、翌日からは弘も復帰した。そして、マスターに見てもらいながら通し練習をした。
 何回目かの通り練習をしようとした時、マスターが言った。
「結構夜遅くなってきたし、自宅に電話かけた方がいいんじゃない?」
「そうですね」
 わたしと1年生3人はそれぞれ携帯を取り出し自宅に電話をかけた。
「あれ? 弘は電話かけないの?」
 わたしのその質問に対して「うちは別に心配しないと思うんで…」と弘は答えた。
 そしてその日の最後には、マスターから「結構うまくなったね」と評価をもらえた。
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