演劇部の記憶
それから1週間、予選に向けて最後の追い込み練習をした。わたしは、昼間から高校の授業をさぼって練習をしたかったが、残り4人の意向により練習は放課後だけだった。
 そして予選前日、わたしは、明日の予選会場の下見、残りの4人は練習を先に始めるという予定だった。
『終点でございます。お忘れ物のないようにお降り下さい。ホーム8番線に到着しております。乗り継ぎ、18時発……』
「ああ、遅くなっちゃった。でも、下見しといてよかったわ。」
 そうつぶやいてわたしは電車から降りた。わたしは、明日の入場パスになるという地球がデザインされたシールを早くも服に貼っていた。
――あれ?
 わたしは、線路をはさんで向かい側のホームに弘とマスターらしい人がいるのを見かけた。そこにちょうど東京発ののぞみが入ってくる。その中から降りてきた中年の男性と女性に2人は近づいていった。
 その時、わたしの携帯電話がなった。1年生のメンバーだった。
『先輩、どうしたんですか。先輩も弘さんも来られないんで、どうしたかと思って』
「ああ、今、駅についたからすぐ向かうね」
 携帯電話を閉じ、弘たちがいたホームにもう一度目を向けたが、そこに弘たちはいなかった。わたしは、あれは本当に弘だったのかと疑問に思いながら、駅の改札に向かった。
 練習場所にわたしがついたのは、もう日が暮れてからだった。
「練習進んだ?」
「まあ、なんとなくは。でも、先輩も弘さんもいないとなかなか進まなくて」
「そうだ。弘は来ないの? 下見の帰りに駅のホームで弘らしい姿を見かけたんだけど、何やっているわけだ?」
「弘さん、『どうしても行かないといけないところがある』って言ってあとから来ると言っていたんですけど……」
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