死にたがりの少女をさらった愛することを忘れた狐
5話[吟華という人物]

この世界に来てから

曜日感覚や日にちの感覚が無くなった

一応朝が来て、夜は来るけれど

時間の感覚がまるでない

辛うじて分かるとすればテレビで流れるニュースや番組の移り変わりで時間が何時かなんとなく分かるくらい

「吟華さん、吟華さん」

彼はほとんど寝ていることが多い

私は暇を持て余してしまう

なので、大きなしっぽにちょっかいをかける

「吟華さんのしっぽはふさふさで気持ちがいいです」

「・・・••」

それでも起きてはくれない

肩とか凝らないのかな

こんなに重そうなしっぽ9本もぶら下げてて

吟華さんは優しいように見えて

とても冷たいと思う

言葉に感情がない

楽しいとか悲しいとかそう言う感情が感じられない

いつも悲しそうな顔をしている

「おい、いづみやめろ」

「あ、おはようございます!」

まだ眠そうな狐さんはむくりと起き上がる

「飯は食ったか?」

「はい、頂きました」

「そうか。」

それだけ言うと彼は何処へ行ってしまった

「退屈だなぁ」

「いづみさま!わたしがお相手いたします!」

ひょこっと顔を出した子狐の子

「わ!びっくりした」

「申し遅れました。わたしは椿といいます」

「椿、ちゃん?」

「これでも性別はおとこです!」

「あ、男の子なんだね、ごめんごめん」

「主様がいらっしゃらない時はわたしがお相手致しますのでお声掛けて下さいませ」

「ありがとう。ねえ椿君、吟華さんてどこに行ってるの?」

「主様の行き先はわたしにも分からないんです。ごめんなさい。」

申し訳なさそうにしゅんとしてしまう椿君があまりにも可愛くてついつい抱き締めてしまう

「わぷ!く、苦しいですいづみさま!」

「もー、可愛いよお!もふもふ!」

私は動物が好きらしい

特に犬とか、こう見ると狐も好きらしい

それからは椿君とテレビを見たり、他愛のない話をしてその日を過ごした。
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