弱い私も受け入れて
「マジですか!?俺、絶対に振られると思ってたのに、つい勢いであんなこと言っちゃって……よかった。井上さんには迷惑ばっかりかけてるから、そんな風に思ってくれてたなんて」


しばらく停止していた香坂君は一度口を開いたかと思うと、次々に言葉を繋ぐ。


「だめな子ほど可愛いって言うじゃない。それと同じ心理なんじゃない?」


「それって俺の扱いひどくないですか?……って、あれ?さっきまでの井上さんは何処へ。いつの間にか復活してません?」


うん、なぜだか1人で泣いていたときみたいな、虚無感はいつの間にか綺麗さっぱり消え去っていた。彼をからかって遊んでいるうちに、涙は止まっていた。


「一体何の話をしてるの?さて、こんな時間だし、ご飯でも行こうか……きゃっ!!」


パッと椅子から立ち上がり、彼にも立つように促した。けれど荷物を取ろうと伸ばした腕は、強い力によって阻止されてしまった。






「何、自己完結しようとしてるんですか」


不機嫌な声はなぜか私の頭上から、しかも至近距離から聞こえてくる。その違和感のあと、私の今の体制に気がついた。


香坂君に抱きしめられ、温もりに包まれていた。突然の事に何も反応が出来なかった。


顔をあげて抗議しようと思ったけれど、ぎゅっと抱きしめる力が強くなり……やめた。


ただ私の腕はどこに置けばいいのか分からずに、だらんと下に足らすしかなかった。


「……もっと見せてくださいよ、井上さんの弱い部分も。井上さんはこの仕事するには優しすぎます。そんな平気な顔しないで下さい。1人で抱え込まないで下さい。……いつか潰れちゃいますよ。だから、俺にだけでもいいから弱い部分も、どんな井上さんでも見せて下さい」


なんで、あんたの方が泣きそうになってるのよ。彼の声は泣くのを堪えているように、明らかに震えていた。その反応が……心から嬉しくて、愛おしい。


彼の気持ちに答えるように、腕をそっと彼の背中にまわして、抱きしめ返した。


「……仕方ないな。特別だからね」


彼の胸に顔を埋めながらもごもごと伝えた。なんだか、今更恥ずかしくなってしまった。


「その照れた可愛い姿も、俺だけに見せて下さい」


そう言って頭を優しく何度も撫でてくれていた。私は、うんうんと声は出さずに頷いた。どうしよう、今日は涙腺が緩みっぱなしだ。今日何度目かの涙が溢れてくるのを止められない。


けれど本当に不思議。さっき頭を撫でられたときは、あんなにも心臓がうるさかったのに、それが嘘のように今は安心できるというか、凄く穏やかな気持ちになる。

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