【完】籠球ロマンティック
しかし、その腕は逸人に掴まれて阻まれ、律子の剥き出しの肩には、逸人のお気に入りのシトラスの香りの付いたパーカーがふわり、とかけられる。


「落ち着け。死なないよこれくらいじゃ。救急車の前に自分の止血と服を着ろ。それから俺の止血、な?」


自分とそっくりの丸く大きな瞳は愛情で溢れ、律子のことしか考えていない。


自分が、自分のことしか考えていなかったことが途端に恥ずかしくなり、律子はパーカーに袖を通して救急箱のあるところへと走った。


血が流れ、痛む胸も気にせず、逸人の応急措置に徹した。


「バカイツ!私なんか放っておけばこんなことになんなかったのに!バスケ出来なくなるわよ、こんな怪我!」


「お前が傷付かない為なら、俺はバスケなんか要らないよ。お前が女であることを要らないって思うのと同じさ」


応急措置をする律子の手を優しい手付きで撫でる逸人の、慈しむようなその感触が、律子には堪らなく辛かった。
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