【完】籠球ロマンティック
「私だって、自由に飛ぶ権利はあるのに、どうしてこんなものがあるの?どうして女なの?どうして女ってだけで、私は大事なものを失わなきゃいけないの?」


言葉に出るのは、答えなんか見つかる筈がない疑問ばかり。


逸人は黙って律子を見ていた。それは、同情でも、嘲る感情でもない。


「俺は嫌だ。律子がバスケごときの為に傷付くのは嫌だよ」


「ごときって、どういう……!?」


自分の大事なものをそのように告げた逸人を睨み付けた時には、もう後戻りは出来ない状況。


逸人は、奪った包丁で、自身の足首から甲にかけての箇所をひと突き、躊躇いもなく刺したのだ。


「いっ……!?やだ、どうしてよ!バカ!どうしよう、どうしよう!」


「ほら、目の前で傷付くの見るのは焦るだろ?……っつぅー!イテェ」


『イテェ』等という軽い怪我で無いことは、冷静さを失った律子にだって分かること。


「イツ、早く止血しなきゃ……!き、救急車!そうよ救急車!」


もう、自分のこと等頭に入らないくらいに慌てた律子は、放ったコートのポケットにある携帯に向かって走ろうとした。
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