家へ帰ろう


コーラをゆっくり飲み干してから、人波に流されるまま歩いていくと、大手のディスカウントショップが見えてきた。
それは、俺にとって、さっきまで重く感じていたものを吹き飛ばすには、充分な魅力を持っていた。
有名なお笑い芸人が、よくこの店に行くってテレビで言っていたのを覚えていたからだ。

その芸人がいるとは限らないのに、俺は嬉しくなって意気揚々と店内に踏み込んだ。

所狭しと置かれた商品の数々に、心がワクワクしていく。
あれもこれも手に取り眺め、へぇ、とか、おぉ、とか、いちいち声を上げていった。
そんな感じで上から下まで見て歩いていたら、いつの間にか時間は過ぎ。
店の外に出た時、街の雰囲気はガラリと変わり始めていた。
いかがわしい店の看板には、ライトが灯り。
その店のスーツを着た兄ちゃんたちが、呼び込みを始めていた。

「やべ……。家、探さないと……」

ボソリつぶやき、歩き出す。

少し歩いたところで、飲食店の並びに不動産屋を発見した。
不動産屋を見つけただけで、家は確保できたとばかりに期待に頬を緩めてドアを開け中に入る。

入ってすぐに長いテーブル。
その向こう側に外を向いて座っていたのは、やくざのような顔をした不動産屋の人だった。

その風貌に一瞬、たじろいだ。

勢いよく入った俺の顔を見て、低い声がでどうぞ。と目の前の椅子に座ることを促される。
目元だけの笑みが、ひどく不気味に感じて背筋が凍りそうだ。

入る店を間違えた……。

そう思っても、出ていけるような雰囲気ではない。
俺は、促されるままに荷物を抱えて椅子に座る。


< 12 / 17 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop