イジワル上司に恋をして
あのイベントのときを思えば、その日のお茶出しは全くそこまで追い込まれることはなかった。
洗い物も下げたらすぐに出来るほどの余裕もあったし、席が空いた後のテーブルを片付けることも出来た。
ショップも何事もなくクローズし終えて、美優ちゃんは上がる。
わたしは、意外に入ったお客さんのこともあって、お茶や備品の在庫をチェックしていた。
ほぼ、一日の仕事を終えた……と、気が抜けてしまうと、余計なことが思い返されてしまう。
……吉原香澄さん、か。
まさか、あんなふうに喋るだなんて思いもしなかった。それもこれも――……。
メモしていたペンを止め、焦点が合わぬまま遠くを見つめる。
その先に思い描いていたのは、もちろんアイツ。
まぁ確かに? あの男のすることだから、わたしを放置したまま自分はさっさといなくなるなんて、驚くような行動ではないかもしれないけど。
それでも、さすがに今回みたいな状況なら、少しくらい助けても……なんて、ちょっと期待してたわたしが間違いだったのね!
「随分手が止まってるけど?」
と、思ってたところにタイミングが悪い……いや、良いのかも!
屈んでいたわたしは、その姿勢のまま顔だけを回し、ヤツを見上げる。
これは、今回のことは。正面からコイツを責めたって許されるよね?
「……なに、なにもなかったような顔して、普通に話し掛けてきてるんですか?」
その飄々とした顔が気に食わないんだっつーの!
淡々とした口調で嫌みたっぷりで言ったけど、黒川の反応が返ってこない。
初めは単に不思議に感じたけど、すぐに、『逆ギレか?』と不安な気持ちが湧いて仰ぎ見た。