イジワル上司に恋をして
ドアの前に着いたはいいけど、どのタイミングでここを開ければいいのかな……?
話の内容はまだ全然わかんないけど……でも、さすがにこんな近くに立ってたら……。
戸惑っていたときに、ポンと驚きの言葉が飛び込んできた。
「やっぱり、好きなのっ……」
それは、なにか食べ物とか、趣味とか。そういうことを指して言ってるんじゃないってすぐわかる。
だって、すごく切ないような、勇気を振り絞ったような声なんだもん。
そして、わたしの耳の記憶が間違ってなければ、この声って……香耶さん?
居合わせてしまったこのシチュエーションに、心臓が爆発しそう。
香耶さんが「好き」だと言う相手。
場所はブライダルとショップの休憩室。そして、この部署に男は一人。
相手は、もしかしなくても――。
「……仲江」
――黒川。
ドキンドキンと暴れ回る心臓。これでもかと、両手で左胸を抑えるけど、この音がドアの向こうにいる二人にも届いてしまうんじゃないかというくらい、ハラハラしてしまう。
どっ、どどどど、どうしよう?!
こんなとこに何食わぬ顔して「おはようございます」とかっていけないって!
かと言って、ここから離れるのに、足音とかで気付かれたらどうしよう?!
もうわけわかんない! 震えちゃって、ここからわたし、動けないよー!!
緊迫した状況に、堪え切れずに声が出てしまいそうで。
わたしはたまらずに、胸を抑えていた手を今度は口に持っていく。
両手で口元を抑えて、必死に息を潜める。
手を口に使っているということは、耳は塞げやしない。
そうなると、自動的に声が耳に入って来て……。