イジワル上司に恋をして
脳内で愚痴をこぼし掛けて、ピタリと止まる。
思い出さないようにしてたのに。
アイツの一挙一動や、あの衝動を、封印しようと思ってるのに。
不思議なもので、考えないようにしようとすればするほど、その意に反して頭の中はそれでいっぱいになる。
磨かれたエレベーターのドアに映る自分の顔を見つめる。
「……こんなんじゃ、アイツになんか顔見せられないっ」
喝をいれるように、扉の自分にそう厳しく言い放つと、軽く頬を叩いた。
そうだ。いくらいつもより早い時間とは言え、アイツはあれで部長だし、もしかしたら出くわす可能性だってある。
ふたりきりなんて、危険極まりないんだから、慎重に動かないと。
ポーンと音が鳴り、1階で扉が開いた。
広いエントランスホールを、まっすぐにショップに向かって歩き出す。
まだ開店してないショップやブライダルサロンは電気が点けられてない。
薄暗い様子は、誰もいないようにも思えたけど、さっき戒めたばかりのわたしはここでも慎重になる。
足音を鳴らさないように、そっと入口に手を掛けて。
奥の休憩室や事務所に意識を向けながら、そーっと歩を進める。
……なんか、これじゃあまるで泥棒みたい。
そんなことが頭を過ったけど、ふと人の気配がしてわたしは息を止めた。
誰か、いる……。でも、どこもまだ電気が点いてないような……?
不思議に思って、一度深呼吸をしたのちに、ゆっくりと前に歩く。
すると、話し声がぼそぼそと耳に届いてきて、そこにいるのは一人じゃないのだとわかる。
ってことは、仮に片方が黒川だとしても、誰かもう一人いるからなにも心配することないってことね! よかったよかった!
それだけわかると、すっかり安心して、さっきよりも気楽な気持ちでドアに近づいていく。
話し声は、どうやら休憩室から聞こえてくる。