イジワル上司に恋をして

「……実は、黒川くんがココに配属されて、時間が経つ毎にそんな予感がしてた」
「……ああ」
「だって、他のスタッフは気付かないだろうけど、前にも一緒に働いてたわたしには気付くこととかあったし」


タイミングを見計らって入るものの、なんだか会話が途切れることがなくて足踏みしてしまう。


「ごめん。でも、最近なんだよ。自分で認めたのが」


……ん? なんか、仕事の話から逸れてる? もしかして。
だったらますます出て行きづらいじゃない!

くるりと背を向けるようにして、私物バッグを抱えるようにして息を潜める。


「うん。そういう表情(カオ)、今まで見たことないからわかるわ」
「……」
「……じゃあ、わたしちょっと、今度の式でのメニューで料理長のとこに話があるから行ってきます」
「ああ」


えっ! マズイ! 香耶さんがこっちに来ちゃう……!

動揺した私は、一か八かで少し距離を戻って、今来た風に見せかける。


「あっ。お、おはようございます!」
「なっちゃん。おはよう」
「あ……えと、なんか、黒川さんが話ある……って」
「ふふっ。黒川くんなら事務所にいるわよ?」
「あ、ありがとうございます」


ペコっと勢いよく頭を下げ、そそくさと事務所に入る。
ドアを閉めて、ほぅっと息を吐くと、前方から聞こえた声にまた肩を上げて身を強張らせた。


「謀ったようなタイミングだな」
「な、なにがですか!」


ぎくりとしながらどうにか返すと、座ってパソコンに向かっていた黒川がゆっくりと振り向いた。

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