イジワル上司に恋をして

「別に? まー、仲江も気付いてて言ってたのかもな?」
「えっ」


う、うそ! それってすごい気まずいじゃん!

顔面蒼白になったわたしを、表情ひとつ崩さずに涼しい顔をして見上げる黒川。
ジッと見られると、未だに落ち着かなくて変な気を回してしまう。


「あー……あー……あ! あのっ。来年の春……4月の末あたりは、式場空いてますか?! わたしの友人がココで式を挙げようか迷っているみたいで……!」
「4月?」


浅く眉根に皺を寄せ、黒川はそういいながらパソコンに向きなおす。
手早くなにやら弄った後に、画面を指差して言われた。


「4月。26日と29日にそれぞれ空きは今のところあるな。時間の希望は?」
「あ……聞いてないです」
「バカ。基本だろ、そういうの。じゃあ今空いてる日にちと時間の枠控えて、その知り合いに伝えて聞いておけ」


「はい」と小さく返事をしながら、手帳を取り出し、画面を覗きこむ。
そして、ペンを走らせながら口を尖らせた。

なによ、なによ。
「基本」かもしれないけど、わたしはそんなの知らなかったんだから仕方ないじゃない。

口には出さずに文句を頭で連ねていると、不意に黒川が立ち上がる。
日程を写すのに必死で、間近に黒川がいることなんかに気も留めなかった。だけど、写し終わった今、至近距離で立ち上がった黒川を見上げて一気に心臓が高鳴ってしまう。

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