イジワル上司に恋をして

ば、バカなの花! 立ち上がっただけでしょ! ここは職場でしょ!
なにをそんなにドキドキする必要があるのよ!

すると、その叱咤通りに、黒川はわたしをちらりと見下ろすだけで、スッと歩いて行った。
事務所の壁側に設置されてる書棚に、長い足を動かして向かっていく。黒川の動きを無意識に追って見ていると、数十冊の本を手にしてくるりと振り返る。

ジッとわたしを見たまま、また近づいてくる黒川がなんだかおそろしい。

なに? なにを言われるの? なんかされちゃう……?!
目を見開いて構えていると、容赦なく黒川はわたしとの距離を詰めて、目の前で止まる。

そして乱暴に手に持っていた本を、ドサドサとわたしの手に乗せ渡す。


「……なっ……んですか、コレ!」
「持ち帰りは厳禁。ただし、必要なページはコピー可」
「はっ、はぁ?!」
「あと、コレ」


意味不明な言葉の羅列。そして持たされた本の上に置かれた一枚のハガキ。
それに視線を落とすと、なにやら誰かの結婚報告のよう。初めは気付かなかったけど、右下の隅に映ってる写真に目が留まった。

……これ、この前わたしが緊張してた花嫁さんに上げた手作りポプリ……?

幸せそうな写真数枚の隙間にひとこと書かれてたメッセージ。
【仲江さん、スタッフの皆さん、素敵なお守りをくれた鈴原さん。ありがとうございました】

自分の名前があることに呆気にとられたまま黒川を見上げると、ちょっとも笑わずにヤツが言う。


「接客態度や、それに対する好感度は問題ない。突発的な出来事も、意外に対応出来る。あとは経験と、基礎知識」
「なに……言ってんですか」
「オマエ、プランナーの仕事目指せ」


……は?

突然なにを言い出すのかと、頭の中は真っ白。
ぽかんと黒川を見上げてるけど、嫌味にでも全然笑わないとこを見ると、どうやらこれは本気の話だ。


「正式にこっちに配属になるのは来年予定。それまではショップと兼任。ああ、ちょうどよかったな。そのお友達とやらの式、オマエが担当してみろ」
「ちょっ……そ、そんな急に!」
「やる気ないならこの話はナシだ」


腕を組んで、あっさりバッサリそう言い放った黒川は、さっきとは違ってちょっとだけ口角が上がってた。

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