イジワル上司に恋をして


「あ、鈴原さん!」


黒川に対するストレスをトイレの壁にぶつけてきたわたしが戻ると、美優ちゃんが駆け寄ってきた。


「あ、ごめんね。結局、結構抜けちゃって……」
「大丈夫ですよー。相変わらずショップ(こっち)はヒマですから」
「はは。ヒマ、ね」
「それより!」


レジに並んで立つわたしに、ズイっと顔を近づけて美優ちゃんが言う。


「超、羨ましかったですー! 黒川さんに手当てして貰ったんですよね?! いーな、いーなぁ!!」


いや……手当てと言えば、まぁそれはしてもらったカタチにはなったかもしんないけど。でも、決して「いーなぁ」って言われるような感覚はないんですけど。


「や、絆創膏取ってくれただけだし、べつに羨ましがられるようなことは――」


そこまで答えて、ポン、と頭に浮かんだ。

『おいで』

あの、紳士的な顔をしたときの黒川が。そして、そのまま頭に続けて浮かんだのは……。

『脱がしてほしい?』


「……っだー!!」


イタズラな上目遣いのアイツが、まだ脳裏に焼き付いてる。

それを言われた瞬間も、思い出してしまった今も。
体温が微妙に上がって、ドキドキとしてしまうのがむかつく。

なんで、あんなやつに、こんなふうに動揺しなきゃなんないの?!


「ど、どうしたんですか? 鈴原さん」


突如、声を上げたわたしに、驚いた顔を向けた美優ちゃんを見て我に返る。


やめやめっ。こうして今でもアイツのことを考えてるってだけ、時間のムダ!
大体、アイツが余計なことをしたり、言ったりするから! そしてアイツが無駄に美形だから、不本意にもこう、ドキッとしちゃうのよ! そう! これは見た目だけにやられる、一時的な動悸!

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