夏音の風
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「……ここ、どこ?」
全速力で走り出して10分、もうあの運転手の姿は見えなかった。しかし、バスの終点場所である風間谷(ふうまだに)の町の様子は少し違っていた。
快晴だった空には灰色の曇がかかり、道行く人も誰もいない。さらに自分は土地勘がある方だと思っていたのだが、後どのくらい歩けば自分の家なのかも予想がつかない。
荒い呼吸を落ち着かせるため、夏音は生い茂る木の木陰で足を止めた。
とりあえず、電話を探さなきゃ
一息ついたらまた歩き出さなければならない。そう思うと、夏音は心の底から溜め息をついた。
こんな人も通らないような森の中で、簡単に電話をかけられるはずがないと思ったからだ。
「歩くしかない、か」
と、半ば諦めた気持ちでこれから進むであろう道の先を見渡す。
あれって、警察の人じゃ……
自分の姿を照らすには不十分なくらいに小さく光る白い球。定期的に町を巡回している交番の自転車のライトだ。
これで助かる――そう夏音は安堵した。