夏音の風

ザワザワと木々を揺らす風はさっきよりも激しくなっている。


目の前に立つモノは、人間の姿をしたバケモノ。だけど、これは夢の中の世界。私が望めば何度でもリセット出来る世界なはず。


夏音はそう何度も繰り返し自身を落ち着けようとするも、内心ではやはり少し恐ろしかった。


一切手は出さずに髪の毛からつま先まで自分を舐め回すように見るその姿に吐き気まで感じてしまう。


「イケニエ」


そう口にした瞬間、ソレは急に瞳の色を紅く光らせた。


――もういい、もういいから早くこの夢から覚めて


吸血鬼のような長い牙(キバ)が見えるほどにソレが大きく口を開くと、夏音は覚めない夢の中で自分が殺される覚悟を決めぎゅっと目を瞑った。





「姫様に触るな」





……この声って――


あれ? 動く?


今まで金縛りにあってるかのように動けなかった体が嘘のように簡単に動く。それに、噛まれたなずなのに……まるで痛みを感じないし。


私、どうなったの?
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